アメリカのビル市場、最悪期を脱出した模様

 日本のデベの時価総額首位の座が「三井不動産」で固まった。ライバルの三菱地所が世界的に不振なビル事業に偏重している一方、同社はモール、レジャー、ホテルにも強い。

三井不動産が主導している神宮外苑再開発計画には反対が起きている。人間はえてして見慣れた風景が変わってしまうのを嫌うものだが、都市は変革を続けるべきものなのだ。

 

 先進国の諸都市と比べ日本のビルはよく埋まっており、世界の投資家が集まりつつある。また東京にも数億円から200億円のウルトラ・ラグジュアリー・マンションが登場している。

 

 経済学者のポール・クルーグマン氏が、通説に反してバブル崩壊後の日本経済は健闘してきたとしている。労働人口の減少を考慮すると一人当たりGDPの伸びはアメリカに遜色ない。失業率の悪化もよくコントロールされ、これには大型の財政刺激が貢献してきた。

 

 アメリカでオフィス市場の悪化が峠を越した模様だ。オフィスリートの株価は4週間連続で上昇し、床のリーシングも前四半期比で伸びた。

 

「ニューヨークではビル市場は死んだ」などと言われていたがこれは誤りだった。実際はハドソンヤードやスパイラル・ビル等の超大型新築ビルの好調なリーシングがけん引して、マンハッタンのミッドタウン地区は全米で最も貸し床面積の純増が大きかった。

 

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 オフィス床の将来的な需要を左右する「在宅勤務/ハイブリッド勤務/リモートワーク」問題は、より高い頻度でのオフィス出社を求める経営側が従業員側より優位に立っている。

 

 マンハッタンでビルの新築の際に床面積の上乗せを認める条件として設置を求められた公開空地が、実際は「公開」されていないケースが非常に多い。このような公開空地は598カ所あるが、レストランやカフェとして利用されたり、資材置き場になったりしている。

 

 ハドソンヤードの2本の超高層マンションの内、30ハドソンは成約率がまだ60%と低調だ。一方、マンハッタンのラグジュアリーマンション市場は活況となったともされる。

 

 商業不動産ローンの返済を止めてレンダーに物件を引き渡す例が多発しているが、あるホテルリートは19棟をレンダーに引き渡す予定とした。

 

 ブラックストーンは運用資産が1兆$(140兆円)となった。節目となるディールにはサムゼルから買ったオフィス群360$(5.0兆円)やヒルトン260$(3.6兆円)があり、近時は商業不動産投資で個人富裕層向けの非取引リートBREITが同社の稼ぎ頭となっている。

 

 中国では年初にいったん上昇し始めた住宅価格がまた下落を始め、懸念が深まっている。個別デベでは大連万達、恒大集団、佳兆業、遠洋集団が問題として出ている。

 

 中国の景気回復の勢いは消えつつあり、日本がたどった「バランスシート型不況」の道へ入りつつある。国内や発展途上国向けに行った巨額の投資が巨額の債務となっているが、問題は例えば「地方部の車が全くない高速道路」等、投資が生産や効率を生んでいない事だ。

 

 ヨーロッパでは不動産が経済で大きな問題になる国と、逆に不動産市場がにぎわっている国がある。前者は経済力が大きい基幹的な国々で、イギリス、フランス、ドイツ等、後者はスペインやギリシャ島でドバイをこれに含める事も可能だ。

 

<<アメリカのオフィス・最悪期を通過の関係記事:末尾>>

ビル:オフィスリートの株価が上昇軌道に入る 

(ブルームバーグ 2023.7.19・水)

 オフィスリート指数は4週間連続で上昇し、6月月初比の上昇率は17%にもなる。ビルのキャッシュフローが細りつつある中で「いったい誰が」「デット/エクィティのどの様な形で」資金を投じるかが焦点だ。例えば先月末には日本の森トラが大型ビルを取得した。大手オフィスリート群のビルは稼動率が90%強もある。

ビル:オフィス需要、「改善傾向が確かである」とする兆候が見られる 

(ブルームバーグ 2023.7.13・木)

 商業不動産仲介大手のJLLは「アメリカのオフィス需要が安定化し始めている兆候が見え始めている」とした。顕著なのはテキサス州のエネルギー産業だ。第2四半期のオフィスのリーシングは前四半期比で7.7%上昇した。JLLは「但しこれが持続的回復へ向う出発点だとするにはまだ早すぎる」ともしている。

ビル:銀行と商業不動産への見方が対立しているという問題 

(フィナンシャルタイムズ電子版 2023.7.13・木)

 商業不動産ローンの多くはノンバンクが出しているがブラックスト―ンは大型ビルを損切りして売った。商業不動産問題は総論での検討ではなく状況を仔細に分けて検討すべきだ。各都市で状況は異なる上、ニューヨーク市内でも地区で異なりクラスAとクラスBでは話が違う。「商業不動産」と一まとめにした分析には意味がない。

ビル:アメリカで最もホットなのは「ニューヨークのミッドタウン」だった 

(ブルームバーグ 2023.7.25・火)

 オフィスの貸付床面積の合計は全米では純減で80都市中15都市だけが増加している。この4四半期で貸付床面積の純憎が最大なのは驚くべき事にミッドタウンだ。マンハッタン全体で見るとダウンタウンやミッドタウン・サウスに引っ張られてマイナスだが、ハドソンヤード、マンハッタン・ウエスト、スパイラル、ワン・バンダービルトといった新築の大型ビルの好調さが貢献している。マンハッタンのオフィス市場を暗いとするのは誤りだ。

ビル:デフォルトの増加で銀行規制当局が商業不動産ローンの規制緩和 

(ウォールストリート・ジャーナル電子版 2023.7.24・月)

 Fedと連邦預金保険公社は銀行に対し商業不動産ローンの借り換え要件を緩和し、デフォルトの多発を抑える。2008-09年の金融危機当時にレンダーがこれを乗り越える為に出動した規制緩和措置と同様な措置だ。商業不動産の所有会社各社は地銀倒産発生以降、当局は銀行に商業不動産融資残高の削減を求めていたとしている。

 

***ジャパン・トランスナショナル 坪田 清***

 

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