SATOUセミナーという、不動産の証券化に古くから携わっていた方々が多く出席されるセミナーでの講演録です。
セミナーの主宰者の方は不動産特定共同事業法やリート制度の創設に民間側から深く関与し、もし彼がいなかったら日本の今の不動産証券化はなかったといっても過言ではない方です。
(講演録)
第30回 SATOUフォーラム 2023.3.7 ■講演:坪田 清氏・ジャパン・トランスナショナル代表
グローバル不動産経済研究会 主宰
演題:「知っているとためになるかも! 米国不動産 の実践豆知識」 ―〝現役時代の業務(三井不動産にて米国不動産の調査担当)が面白 くて、今では年金の足しになっちゃいました〟米国不動産ウォッ チャーうん十年を自認する坪田先生の実践ノウハウ公開)
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(以下:講演**当日の講演に対して加筆した部分があります)
本日の講演は、米国不動産に関する豆知識がテーマだ。話はあちこちに飛ぶが お付き合いいただきたい。
階数をサバ読む
まずはトランプタワー。最上階は 68 階だとしているが、建築基準法上は 58 階。10 階分サバ読んでいる。14 階まである商業フロアの一つ上の住宅部分が始 まる階は 20 階となっている。
ビリオネアズロウのある超高層・超高額マンション。 「ビリオネアズロウ(億万長者通り)」とはカーネギーホールがある通りのニック ネームで、超高層・超高額のマンションも並んでいる。そのうちの1棟は、96 階 としているが、建築基準法上は 82 階。機械室で階数をごまかしているようだ。
日本では三井本館が階数をサバ読んでいる。竣工暫くは6階建てだったのだが、 戦時中、6 階建て以下の建物のエレベーターは金属供出の対象となるとの情報か ら慌てて7階建てと勘定する事にした。1階の奥の上部に1階から階段でしか入れない「中2階」とも呼びかねる変なスペースがある。竣工当時は銀行の女子行員の休憩スペースだったとの事だが、これを 2 階と呼ぶ事にして、全体は7 階建てだとしエレベーターを守った。このビルのエレベーターには当然、「2 階」のボタンがない。
ブツで持つか会社の株として持つか
SPCやSPVというものがある。SPCとは Special Purpose Company の 略で、SPVとは Special Purpose Vehicle の略。問題はこの使い方だ。例えば 米国で企業がビルを買うときは、間に子会社(SPC)をかませ、その子会社が 借入れをしてビルを取得するというパターンが多い。ビルの取得資金は子会 が借り、その子会社が万一デフォルトしてもビルを銀行に差し出すだけで良く、返済 額が足りなくても親会社には追及は及ばない。いわゆる「ノンリコース」だ。ただ し銀行が融資する際に、融資額の15~20%相当は親会社に出資を求めるので、親会社はそ の分は失うことになる。
「ノンリコース」などと聞くと日本のデベにとり夢の様 な話に思えるが、異なる競争条件の下、競争のし烈さは似た様なものだ。 またこのような仕組みの下でビルを売却する場合、ビルを不動産の形で売却 できるのはもちろん、子会社の株式の形でビルを売却することもできる。共同事業の持ち分割合を株式保有割合で簡単に決められる事でも便利だ。 日本で普及していないのは日本の連結納税制度がアメリカに比べて使いづらい為ではと想像しているが、断言できない。
新型コロナで変わった『空室率』の考えかた
米国のオフィスビル市場は危機にある。マンハッタンではクオリティの低いビル はガラガラになった。昔はオフィスビルの空室率は、「賃貸契約で埋まっている部分」と「埋まっていない空室部分」に分ければよいだけだった。この約 10 年ほど景気がよ く企業は床を多めに借りていた所、コロナ禍と在宅勤務者の増加でコスト削減 による見直しを実施。「借りているが余った床」をサブリース(又貸し)として出 すようになった。
アメリカのオフィスの賃貸慣行は 10-20 年で中途解約不可だ。 ビル所有会社にとってはテナントからは今まで通り賃料は入ってくるので当 初は危機感は薄かったが、テナントが出すサブリースがあまりにも増え、賃料相場に影響を与え るようになった。サブリースの部分も本来の空室もどちらもアベイラブル(予約可能) として出されている。サブリースの方が家賃が安いなら新規テナントはそちら に流れてしまう。
このような事情から、「空室率」より「アベイラビリティ(=空室+サブリースの 空室)」の方が重視されている。米全体で見ると「空室率=17%」+「サブリース空 室 4%」、従って「アベイラビリティ=21%」だ。
「マンハッタンでは」というように 絞り込むと地域性や個別性の方が強くなり、更に個別のビルではフリーレント やテナント入居時の内装費用負担をどのくらい提供するかの方が重要になる。
株式会社と組合と課税
会社について。日本は会社法、商法とも国の法律であり日本全国津々浦々同じ。
一方、米国では会社法(カンパニー・アクト)は州法であり、州によって異なり、 州をまたいだ M&A 等では州法の違いで争いが無駄にややこしくなる場合がある。
組合について。日本は民法に則した組合、商法に則した組合、つまり2つの類型がある。組合に関する法律上の規定が簡単すぎるうえ、組合に関する判例や判決も少ないので本気のビジネスでは使おうとしてもおっかない。
それに対し、米 国は組合法(パートナーシップ・アクト)自体はそれぞれの州の州法なのだが、 全米で統一された文言の法律となっていて、どの州法で争うかというような話は起きない。
パートナーシップ・アクトの中に「ジェネラル・パートナーシップ」 と「リミテッド・パートナーシップ」が書かれており、手続も詳しく書いてある。 例えば、○〇パートナーシップが不動産を購入した場合、万が一デフォルトし ても、どのパートナーシップの中にも必ず存在する無限責任パートナーに責任を追及できる。
一方、カン パニーの場合は、基本的にはデフォルトしたら終わり。
続いて課税について。日本では会社の定義は「会社とは・・・・・・社団であ る」とされている。したがって会社ではない社団がたくさんある。法人税法では「法人格を持たない社団にも課税できる」とある。会社という法形式をとっていなく ても国税庁が課税できる社団だとすることがある。
組合の場合は国税庁の通達 によって社団の中での例外とされ、毎年決算をしている等、一定の要件を満たした組合は社団性があっ ても課税客体ではないとされている。いわゆる「人格なき社団」に関する議論だ。
米国は上記の議論と似た話で「パススルー」という言葉を使う。組合(パート ナーシップ)には課税をしないで、利益も損失も組合からパススルーして投資家に帰属させる。各投資家はパススルーで配分を受けた損益を、自分の他の所得等 と合算して納税する事になる。言葉は違うが内容は日本と似ている。
なおパートナーシップ名で不動産登記が出来る等、パートナーシップは「法人格がある」と表現する事がある。日本では組合は「法人格がない社団」である為、組合名での登記はできない。
日米ともに制度はよく変更されるので、直近の制度は各自確認してほしい。
ディール
米国における不動産取引時のエスクローの存在はよく知られているが、タイ トルインシュアランス(会社)の機能も重要で、これは「権原保険」と訳される。
登記制度の話だが、米国では登記は市役所の中の部局(シティレコード) に契約書等を申請、ここでファイルに閉じこまれる。このファイルが登記簿だ。「登記申請」は通常は「ファイリング」と呼ばれる。
シティレコードは持ち込まれた売買契約書等を申請受付け順にファイルに綴じ込んでいく。日本の「登記所が登記簿を編纂する」というイメージではない。将来このファイルされた膨大な契約書の束から必要な権利関係を調査するのは現実的に無理に近く、これを補完するのがタ イトルインシュアランスと呼ばれる会社群だ。この会社はシティレコードを日 常的にチェックし、契約書を見て、権利関係を物件に整理しなおして社内で記録書類としてい る。実務的にはこれが「登記」に代わる機能をしている。
これが「保険」になるのは次のような理由からだ。 米国で不動産を購入しようとする際、最初に見るのが、タイトルインシュアラ ンス会社から取り寄せる「プリリミナリー・レポート(暫定レポート)」で、これにはタイトルインシュアラ ンス会社が把握している当該物件の権利関係の一覧が記載されている。まずこれを見て、その上で よいとなったら本格的な検討段階へ進む。
購入後に、万が一、タイトルインシュアラ ンス会社のレポートにない権利者が出てきた場合、タイトルインシュアランス 会社から保険金が出る。購入者は現れた「権利者」と交渉し、この保険金を賠償金なりにあてて先方の権利を消すのに使うと説明されている。
しかし私は寡聞にして、タイトルインシュアランスのレポートの不備で前記 のようなハメになったという例は聞いた事がない。それでも購入検討にあたっては「プリリミナリー・レポート」は絶対的に必要な資料で、日本で言えば登記簿謄本を見ない訳にはいかないというのと似ている。
ブラックストーンから『オーラ』が薄れる
結論からいうと、ブラックストーンはこれまで破竹の勢いで進んできたが、今、 だいぶん疑われ始めた。長い間、世界的に金融が緩み、各種のファンドビジネス が成功していた。今、金融が縮小し、ファンドビジネスに今までのようにお金が 集まらない可能性が出ている。
ブラックストーンは超大手であり、抜群の安心感があったのだが、それが怪しまれても仕方がない事件が連続して数件起きた。
ブラックストーンがつくった非上場リートに「BREIT」というのがある。 その基準価格推移とBREITと保有不動産が類似する上場リートの価格を比べると、従来は大体同じような 推移をしていたのに昨年の春からその差が拡大した。上場リートが大きく下落 したのに対して BREIT は下落していない。この乖離を「おかしい」と思った投資家が BREIT から次々と解約。BREIT 内の償還用の資金がなくなり解約請求をした 投資家に払い戻しができなくなった。仕組み上、こうなる事がありうると目論見 書には書いてあるとは言え、投資家にとり大ショックでこれがブラックストー ンの最近での最大のチョンボだ。
次のチョンボはアフォーダブル住宅。マンハッタンに、「スタイブサントタウ ン」という 1 万 1200 戸の大規模賃貸マンション団地がある。戦後の復員兵収容用賃貸住宅として建設された。これをブラックストーンは数年前に投資用資産としてまるごと購入した。米 国の住宅政策の基本に「アフォーダブル」という考え方がある。アフォーダブル 住宅とは、無理しない範囲で買える(賃借できる)住宅のの事で、この供給をいかに増やすかは重要な政策課題だ。デベロッパーも マンション開発でよくこの政策の世話になる。市役所と開発を折衝する際に、「××戸のアフォーダブルな住宅(低価格な住宅)をこの開発で設けるので、全体の許可戸数を本来の規制より○○戸増やしてほしい」と交渉、おまけをもらう。
ブラックストーンは何を失敗したのか。この大規模団地では最初に入居した 復員兵が退去してテナントが変わると、(理屈上は)そこでアフォーダブル住宅 による家賃規制・家賃引き上げの制限はなくなる。しかし買収時点では家賃は昔の水準で低いままのものが多かった。ブラ ックストーンはここに目を付けて家賃の引き上げが可能と考えてこれに投資した。 1万 1200 戸のうち、6000 戸くらいはまだアフォーダブルのままで家賃規制を受 けていたのだが、残りはアフォーダブルが解除され家賃は市場水準に引き上げ可能と見込んだ。
しかし裁判で「アフォ―ダブル住宅ではなくなっても、(こ の団地では)家賃を引き上げる事は出来ない」と敗訴となった。これは投資とし てはかなり致命的な読み間違いだ。この間にニューヨークが共和党から民主党 に代わってしまった事が敗訴の原因とも言われるが、ブラックストーンの政治 の流れを読む力が一気に疑問視されるようになった。
新築戸建て住宅と戸建て住宅レンタル
資料の写真は、1900 エーカー(230 万坪)の広大な住宅地。米国の一戸建て住宅の例だが、最近のトレンドとして、これを個人に売るのではなく、まとめて機関投資家に売り、機関投資家がそれを個人向けに賃貸するビジネスが大きく伸びている。
いつから始まっ たビジネスかというとリーマンショックの後に住宅価格が底となった 2010~ 2011 年だ。この時にブラックストーンはここが底値だと考え戸建て住宅を市場 から買い、差し押さえで住宅を失った人達に貸家として貸し始めた。しばらくは 個別にバラバラと買っては貸していたのだが、1戸ずつでは効率が悪いため、最 近はまとめて買うケースが増えた。業界最大手で 10 万戸弱を貸している。
戸数 がまとまった賃貸住宅団地だとメンテナンスの担当者を常駐させることができ、 朝、どこそこが悪いと電話を入れると日中、来て直してくれる。メンテの人間は Web カメラを装着し、家の中にいる間は家主がネット経由で動きを見る仕組みだ。分譲して手が離れると「アフターサービス」だが、賃貸物件だと「所有物件の維持管理」だ。後者の方がモチベーションが湧くのは日米共通のようだ。
なお機関投資家が行うこのような一戸建ての貸し家ビジネスを「戸建て住宅 レンタル」と呼ぶ。貸し家全体で見ると個人富裕層による伝統的な貸家の戸数の 合計の方がまだまだ多いが、「戸建て住宅レンタル」は近年は各種不動産ビジネ スの中で最も急速に伸びている。
ハドソンヤードとコンセッション
「ハドソンヤード」という言葉は何通りかの意味で使われるので最初に整理 したい。
1つは、三井不動産が参画した米国史上最大の民間開発で東西を合わせ て7ブロック。
1つは行政が開発推進と指定した地区の名称としてのハドソンヤード でこれは前出の 7 つ含めた 48 ブロックだ。これらでも次々とビルが建っている。どちらの話なのかは分かりにくい事があるので気を付けた方がいい。
もう一つ は「ハドソン鉄道操車場」という意味でこれが本来の「ハドソンヤード」だ。
ハドソンヤードは1期開発が終わり、今、2期開発の検討が進んでいる。三井不動産が投資したビルは、鉄道の操車場の上にかぶせた人工地盤の場所ではな く、元からの地盤の上にあるので(日本人は)安心しやすいと思う。
不動産開発における「コンセッションとは」を例で見よう。
ハドソンヤードの 「EASTERN YARD」の中央に開発のシンボル的な構築物であるベッセルがある。7 ~8階建てビル相当の高さで階段と踊り場のみで構成されている。「巨大な現代芸術品」でもあり誰もうまく名前を付けられず、結局仮称だったベッセルが通称 になっているようだ。
周辺の公園を含むと 250 億円かかっている。本来、そんな に立派な公園は必要ないのだが、官に対して、「こんなすごい公園を作るのでそ の代わりにおまけをください」とする。この開発では地下鉄の枝線をひき開発地内に新駅を作ってくれた。地下鉄は NY 市や州、交通局が関わり、これだけでも 非常に複雑な交渉であり、話を聞くと日本人では無理だと思った。
この物件では「『デベ側』が規制の最低ラインを超えて余分に作るもの」と「『官側』 がそれを評価して付けてくれるおまけ」をどの範囲・程度にするかが交渉された。 妥結内容は一覧表にまとめられ「コンセッション」と呼ばれる。これが開発許可条件となる。コンセッションを金額に換算し、対外発表される事も多い
考えてみれば日本で も似た様な事をやっている面もあるわけだが、もっとダイナミックでかつ整理がされている。
空中権と住民運動
米国では、空中権制度は市役所が市の条例で決めるので、市ごとに制度が異な る。例えばニューヨークは空中権は土地が隣接している所にしか移せないが、ロ サンゼルスでは昔担当した当時は近場なら離れた所からでも移せた。
マンハッタンにある「200 アムステルダム」は三井不動産が手掛けた 51 階建 て 112 戸の超高層分譲マンションだ。周りから空中権を集めて建設許可を取っ た。空中権をフルに利用した為に周囲から突出して高くなった。本音としては目 障りという事だったのだろうが、住民の一部が「空中権移転の認め方が行き過ぎ だ」としてニューヨーク市の建築局を訴えた。一審は民デベ側の敗訴でこれが確定判決となると上層階を撤去させられる事になりかねなかった。
市の建築局ては空中権移転を認めていたのでメンツを潰された形になり、本気で反論に入 った。その後、手続きとしてどうなったのだかよく理解できないのだが、無事に 建ち、入居も進んでいる。ニューヨークの不動産制度は「ビザンチン(東ローマ帝 国)」と本人たちも自嘲するくらい、複雑に込み入っている。
ニューヨークでは住民運動により各種のプロジェクトが頓挫したり遅れたり する例はよくある。最も有名な制度は「ランドマーク保護条例」で、本来は「建物 の外観に変更を加えるな」であろう。景観法と似て聞こえるが、「ランドマーク 保護」の話は年がら年中で出てくる。ニューヨーカー好みの話題に見える。
中国の航空会社がウォルドルフ・アストリアという超名門ホテルを購入し、一 部はホテルとして残し、残りの部屋は何部屋かずつ壁を抜いてつなげたラグジ ュアリーなマンションとする計画を立てた。ところが「ランドマーク保護」とし て外観は当然としても、ホテルの内部のロビーから3階までが「ランドマーク」 保護の対象になった。どこまでを「ランドマーク」と見るかだが、このホテルは外観とロビーに一体性があり従って建物内部は外からは見えないがランドマーク だとなったようだ。
余談だが、不動産開発の際に「法令を守った建物なら建つ」という国は先進国 では日本だけだ。ほかの国では法令を守っていても何を言い出されるかわから ない。不動産は個別性が高く個別に吟味すべきだという考え方も分かるが、運が 悪いとババを引くわけだ。この「ババの読み方」には経験や専門性が求められ、そ の結果、素人の新規参入的なデベの数が少ないように思う。
米国にはNIMBY(ニンビー)という言葉がある。not in my backyard(そ れが必要なのはわかるが、うちの家の裏庭にだけはやめてくれ)の頭文字を取っ たもの。ニンビズムにより住民運動で行き詰まったプロジェクトのなかには、どこ まで周辺住民のニンビズムを認めるべきか、せめぎあいになった例も多い。
アマ ゾンが第二本社をニューヨーク市のクィーンズで作るとした時、ある若手女性議員が先導する反対運動が起き、結局第二本社計画はつぶれてしまった。市民全体を巻き込んでの大討論会 のような状況に、アマゾンのベソス氏は「もう嫌だ」といって開発を中止したのだった。
リート
アンテナリートという携帯電話の「基地局」を集めたリートがある。米国は広 いので大手のアンテナリートは膨大な数のアンテナ用基地局を保有している。このアンテナリートには今後、すご い可能性がある。自動車の自動運転が実用化の際、誘導を衛星からの電波から行 うと誤差が出て無理らしい。可能性として最も近いのが携帯アンテナ基地から電波を出して 誘導する事と見られている。これはすごいビジネスになる。
屋外広告板リート。日本人の感覚では、大通りの地主がサイドビジネスでやっ ているような話。米国は規模が異なり最大手の広告板リートの運営枚数は 16 万 枚だ。大きな電光掲示板の屋外広告板もある。こういうものがリートになってい るわけだが、同時に「専門性」の話も考えさせられる。日本人は専門性を低いレベ ルで満足してしまう傾向がありそうだ。広告板にもこんな専門性があるのだ。
カンナビスリートのカンナビスとは大麻やマリファナなどの軽い麻薬だ。軽 くても麻薬は連邦法では全面禁止だが、州レベルではこれらを犯罪として取り 締まると弊害が逆に大きいのでレジャー目的なら合法とする州が増えている。 そこで麻薬の種を仕入れて栽培して売るというビジネスがかなりの州で州法上は合法的にで きるようになった。
銀行は連邦政府から規制を受けており、連邦政府が麻薬を禁止している以上、麻薬がらみのビジネスへの融資はしたがらない。そこで登場したのがカンナビスリート だ。銀行ではなく市場から資金を調達する。麻薬のビジネスのどこで資金が寝るかと言えば栽培の為の建物・設備だ。この部分を別会社化してここへ賃借料を支払う形にした上で「リート適格」に整え、上場させて建物や設備の為の資金調達をする。こ の所、最も新規上場数が多いリートのセグメントはカンナビスリートのはずだ。
私が指摘したいのは、麻薬の話ではない。カンナビスリートの様にビジネスプ ロセスの組み立て方を工夫すれば、リートが活用できる道があるのではないか という点を指摘したかった。
有名な変わり種リートに「刑務所リート」がある。元々は刑務所内の給食とか 清掃とかの請負からスタートし、ある時、仕事の手順なり契約形態を変える事で 「リート適格」とされた。刑務所の民営化には批判もあるが、ビジネスプロセスの 組み換え方としては参考になると思う。
日本の現行のリート法なり金融庁の下でどこまで以上のような話の真似ができるかは分 からないが、ビジネスプロセスをこのような目で点検する事には意味があると 思う。
いずれにせよ、日本の不動産ビジネスの可能性は無限大だと思う。
<質問コーナー>
Q.AAAAAAAA 氏(㈱****):会社で有価証券報告書の分析をしている。三 井不動産の有価証券報告書を分析すると、ブラックロックが株主に入ってい る。先ほどの話だと、そのブラックロックが怪しくなってきたと。
A.坪田氏:ブラックロックとブラックストーンは違う会社。ハドソンヤードに 入っているのはブラックロックの方だ。ブラックロックは主にボンドへ投資 するファンド。三井不動産の株主になっているのは、純投資だと思う。先ほど のブラックストーンの主業は不動産と会社買収。買収して転売している。
Q.AAAAAAAA 氏:日本には上場企業が 2700 社あり、うち不動産会社として上 場しているのは 138 社。米国はほとんどがリート。米国では、三井不、住友み たいな会社は上場していないのか。
A.坪田氏:米国には三井不動産のような、自分で土地を買い、建物を建て、貸して保有し続ける会社は昔はなかった。ところが、15 年ほど前から登場して きた。それがリートだ。アメリカでは自ら開発してそのまま保有を続ける事が リートに認められている。日本ではリートの自ら開発は認められていない。 話がずれるが不動産の市場規模が大きくなり昨年、区分が格上げになった。米国で産業区分が昨年秋に変更され、従来は不動産は金融の一部に入っていたの だが、分離して独立した。11 しかない産業分野の1つが不動産になった。そ ういう位置づけになった。私としては隔世の感がある。
Q.AAAAAAAA 氏:日本のリートは、大手不動産のいわば出口・入口になってい る印象。米国はどうか。
A.坪田氏:日本でリートが創設されたのは銀行救済の意味があった。あのとき、 既に米国リートは独立会社だった。どこかの傘下ではなかった。 日本はますます大手不動産の金庫番の印象だ。本来の枠組みである「独立した不 動産としてのリート」は少数派で、かつ日本の現在の商業不動産売買市場ではこれら独立系のリートは 良質な物件を購入できていない。リートは良質な物件を得るという面では、スポンサーからの供給やスポンサーの支援を受けるしかない。独立系リートは物件を高値でしか購入できていない筈で、これでは理屈とは逆の状態だ。
「株式会社」は骨格は共通なのにアメリカ、日本、中国、ドイツといずれも異なった形でその国に根付いている。法は利用されているが法が予定したようには使われていない。「リート」も日本のリートがリート法が予定した所と異なっていてもそれは「社会の知恵」による調整だと思う。
大手傘下にあるリートは利益相反状態ではと言う話だが、先年、三井不動産が55 階建ての旗艦ビルを系列のリートに売った値段は簿価割れの赤字だった。もろもろを考えると「大手デベ傘下のリート」の存在は明らかに一般投資家の利益になっている。ただし将来はどうなるか、分からない。極端な話、「大手デベがリートの傘下になる」という、逆転現象だって考えられる。
それから金融畑の方が軽視しがちな問題として、不動産ビジネスにかかる「手間」の話がある。ビ ルの掃除とか電気給排水や警備・保安のような現業部門だ。これらは日本の大手の間では各社ごとに流儀が異なっており、金融資産と同感覚でビルを扱うと現業部門のロスに気が付かない可能性がある。アメリカの場合は何かにつけ専門特化していて、管理業務は「サイコロを組み替える」ようにして対応できる。近年は日本でも専門特化が随分と進んだが現業部門の効率性には注意をした方が良いと思う。
(主宰者の補足) ******氏; 2001 年の日本のリート創設について補足したい。銀行を救う話に加えて、不 動産会社のこともあった。不動産会社はそれまで、銀行から借入れをして事業を していたが、バブル崩壊後、融資が止まり、つぶれそうになった。そこでどう不 動産会社が資金調達をどう図るかが大きな課題だった。当時、シンジケーション 協議会と大蔵省が話し合い、最後に行き着いた方法がリートだった。2001 年9 月 10 日に三井不動産と三菱地所が立ち上げた。日本と米国のリートの違いは、 不動産業界という魂が入っているか否か。日本のリートの成立要件は資産の 70%が不動産でなければならないが、米国リートは、構造物でもなんでもよい。 創設した動機が違う。米国は資金調達よりも、投資の概念だ。だからなんにでも 投資する。日本は、不動産業界が使えるように作ったという違いがある。
Q.BBBBBBBB 氏(********):日本の不動産会社株について。PBR を見ると、三菱地所ですら1倍で、他の会社はそれを下回っている。その現状 をどうみているのか。なぜ、投資家にこんなに評価されていないのか。どうし たら1倍つくのか。
A.坪田氏:PBR問題はご指摘の通りだ。日本全体が低いので、突出して不動 産会社が低いわけではないが、悲しいことではある。ただ、逆になぜPBRに こだわるのかという気持ちもある。買収するためには必要なので、米国のよう にM&Aが盛んならPBRで議論する事はわかるが。そうはいっても、世界標準でPBRが言われて いる中、日本の不動産会社もPBRに対する意識はあると思う。どうしたらいいかの答えは持ち合わせてない。PBRへの疑問だが、本来なら清算価値のはずだが、東芝問題を見ても清 算にかかる費用など分かりようがない。昔はPERが指標だったがPERでは説明ができなくなったのでPBRが出てきたようにさえ見える。
Q.CCCCCCCC 氏(******):なぜ階数のサバをよむのか。メリットは。
A.坪田氏:見栄だろう。それにサバを読む理由には、マンションの場合、高い ほうが床単価は高くなるから。トランプタワーの場合は、おそらくバブリーで あることを表示したかったのだろう。香港では 44 階を 88 階にしている例も ある。「8」は縁起のよい数字だから。これは米国人もやりすぎと言っていた。
<参加者の声> アンケート(印象に残った点)より
★米国においては、可能性のあるものすべてが投資対象になることなど、 再認識しました。改めてフトコロの深さ(あるいはリスクを承知のうえ 進む)が、わが国とは発想がそもそも異なると思った次第です。 (㈱********)
★昔の知識がよみがえり、頭の整理ができた。 (㈱****)
★米国のREITと日本のREITの本質的な違いがわかりました。あり がとうございました。 (無記名)
★大変興味深い、またわかりやすいお話をありがとうございました。切り 口が大変ユニークで勉強になりました。(********)
★マンハッタンでの住民運動(反対)、空中権の利用
★階数のサバ読み (㈲***)
★日本と米国では対応がかなり異なる点が興味深い。
★プリリミナルレポートとタイトルインシュランスの関係性が理解でき た。
★ブラックストーンの動向は興味深かった。 (*********)
★米国の会社形態
★REITの成り立ちと構造 (*********)
★Q&Aがとても良かったと思います。 (*********) 以上