ソニーの国際感覚ってこの程度のものだったんだと唖然とさせる記事がネットに出た。骨子の抜粋は次の通りだ。
>ソニーは1989年に48億ドル(当時6700億円)でアメリカのコロンビア映画を買収した。
>「ソニーの歴史で最大のミステリー」という買収は、なぜ実施されたのか。当時、ソニーの経
>営戦略本部長として買収劇の事務方を務めた〇〇〇さんは「買収の本当の目的は、アメリカ
>の政財界との交流を深めるためだった」という――。
>「アメリカの魂を買いあさっている」と非難された。
(注:買収当時の「経営戦略本部長」とあるが、役位と年齢が合わない。もっともこの手のサバ読みはソニーのカルチャーの一つに見える)
https://share.smartnews.com/Qs7Ca
一言でまとめれば、「コロンビア映画を買収した事でそれまで成り上がりもの扱いだったソニーがアメリカの本流から仲間として遇されるようになり、これが様々な形で経営に寄与した」という話で、これに限れば「ソニーさん、よかったですね」という事になる。
この説明は私の歴史観とは相いれない。私の方が大外れかもしれないが書くだけ書く。
ソニーの買収劇を上の様なハッピーな話とするのは全く一面的だ。
物事を多面的に見ていない。
ソニー自体はこの巨額買収で後々ハッピーだったのかもしれないが、この買収は日本国民にとっては大きな不幸の始まり、アメリカが見えない形でも手を回し日本の伸長の押さえ込みに入いろうと決意したきっかけの一つとなった可能性がある。
さらにもしかすると、この時にアメリカが始めた見えない形での日本押さえ込みが、現在の日本の長期的閉塞につながった可能性すらあると思う。
ソニーによるこの映画会社の買収は、日本人にとり悪魔による買収だったのではと疑うわけだ。
国土が広く文化的にも多様なアメリカでは、映画によって国民全体の統一的な感情や意思が生まれたりする。過去には多くの「戦意発揚映画」があり、さらに「戦意発揚」を狙って作られたものではないのに「魂」に訴えて国民を戦争に仕向けた映画もある。
こういうビジネスを金に飽かせた金満な日本人が買ったわけだ。日本人がアメリカでどんな世論操作をし始めるか、分かった物ではない。アメリカはこれを最も恐れたはずだ。
この部分を抜きにしてこの話を語っていらっしゃるなら、きわめて片手落ちだ。
買収決断当時の盛田さん、Webの記事だけ読むとアメリカ人が持つに至った怯えについての認識がないか、きわめて薄弱・軽視をしているようだ。表現としては「アメリカ人の魂を買った」と当時は言われたが、これが言いたい心は「ジャップのイエローが今度は金によりアメリカ人の心を操る手段を買ってしまった」とでも表現すべきだろう。当時の盛田さんは財界人一の国際派、その盛田さんでもこんな事がわからなかったのだろうか。
なお同時期に指弾されたのが三菱地所が行った「ロックフェラーセンター」というマンハッタンの大規模ビル群の巨額買収だ(こちらは後に巨額損失となった)。このビル群はアメリカ国民が豊かさの幸せを無邪気に誇る事ができる、繁栄の時代の象徴だった。ソニー同様、三菱地所もこのビル群の巨額買収でアメリカ人のプライドなり自尊心を痛く傷つけ、さらに「真珠湾での奇襲・武力攻撃」とは違う形での経済力を背景にした日本からの侵略を本気で怖れるようになった。一線を越えてしまったのだ。
追記:2023.3.19:アルカイダによる同時多発テロがマンハッタンやペンタゴンを襲った時、
「パールハーバー」を口にしたアメリカ人は多い。
ソニーと三菱地所による二つの買収が「アメリカは日本の経済成長は放置できない」と考える最後の決め手となったのだろうと「私」は考えている。自動車や電化製品のような「性能面の問題」とは違い、ソニーと三菱地所の話は「単純に金に飽かせ、アメリカ企業は買うはずがないようなべらぼうに高い値段で買ったもの」だったからだ。
しかしその後、ソニーがこのような世論操作を疑われる映画はたぶん1本も作っていないのではないかと思う。今の所、「映画によるアメリカ人の心情の操作」という懸念は杞憂だった。
しかし買収当時のソニーのやり方は、「抜き身の日本刀を手にしたサムライがタイムズ・スクエアに突然現れて睥睨した」ようなものだ。後日「オレは日本刀で切りつけるような人間ではないし、実際そんなことはしなかったでしょ」となって相手が笑顔で応対してくれるようになっても、あの時のタイムズ・スクエアの日本刀の不気味さの記憶は消えない。
そして「日本人は真珠湾の奇襲攻撃をした民族だ」という記憶もいつまでも消えないのだ。
(追記2023.3.21)
真珠湾攻撃を受けたショックから、戦後、アメリカは東京周辺に横須賀基地や厚木基地を置き、日本が二度とアメリカに歯向かう事が不可能にしたつもりだった。ところが昭和50年代からアメリカ企業が日本企業に敗北する例が増え、当初は「フラストレーション」を招いただけのように見えていたが、やがてアメリカという国全体の豊かさが「侵略」されかねないという「恐怖感」がアメリカ人の間に広まった。
ソニーなり盛田昭夫氏は「フラストレーション」が「恐怖感」に変わっている状況を軽視し、あるいは国際感覚の鈍さのために感じ取る事ができず、コロンビア映画の買収により非常にうかつに「虎の尾」を踏んでしまったという事になる。「恐怖感」はいったん爆発させてしまったらそれをぬぐいさるのは容易な事ではない。その点、ロックフェラーセンターを買った三菱地所はその後、1500億円の損失を出し、アメリカ人達はある意味で溜飲を下げた。
アメリカは「軍事面での横須賀基地や厚木基地」に代わる方策で日本の経済の弱体化を図ろうとして、これに着手したはずだ。それは「通商代表部」のようなアメリカ政府内では弱体な位置づけでしかない部局他によるものではない。