クオリティの高いビルでもデフォルト等が発生している。ロサンジェルスのビル2本と、ニューヨーク他のビル7本で各デフォルト、マンハッタンの72階建てビルはレンダーウォッチとされた。中古ビルをオフィスからマンションへコンバージョンする例もある。
ビルのデフォルト増加を受けて、CMBSから派生した指数であるCMBXの取引が増加している。オフィスビルについてはオフィスビルの比重が大きい「CMBXシリーズ13」が指数売買に用いられていて、サブプライム危機の際と同じ形で一気に問題が噴出しかねない。
オフィス復帰は特にアメリカで遅れ、リモートワークが広がっている。ヨーロッパや中東、アジアと比べて、アメリカでは住宅が大きくホームオフィスを設けやすい点や、大都市では通勤時間が長い点、労働市場がタイトな点からリモートワークが多い。
(アメリカのビル関連記事は末尾参照)
日銀の次期総裁に学者の植田和男氏がなる。植田氏は下馬評リストには無く、早くも「日銀のサプライズ」だ。植田氏は財務省出身でも日銀出身でもないが、東京大学教授時代の教え子多数が財務省や日銀で幹部・要職にいて、植田氏が「センセイ」である点は大変有利だ。
植田氏は2000年の寄稿で、「金利をゼロにしても消費は増えない」他、現在の日本の状況を魔法の水晶玉で見通したかのように正確に予言していた。植田氏は「最も困難な状況に置かれた中央銀行」である日銀のかじ取りにあたる。量的緩和等は当面は継続する意向。
アメリカでは派手なレイオフ発表が目立つ一方、地味なサービス業の雇用は着実に増えている。また過去の実績を調べると「実際の従業員数減少数」は「発表されたレイオフ数」の3分の2しかない。レイオフは経営者が投資家へ「ポーズ」として発表している面がある。
住宅市場が弱含みの中で、「全額現金」で住宅を購入する個人が増えている。例えばサンベルトの住宅は価格が安いので、カリフォルニアやニューヨークの物件を売れば全額現金での購入は可能になる。従来「全額現金」で買っていた機関投資家は今は買い控えている。
フロリダのディズニーワールドで56年間、ディズニー社が州政府に認められていた特権の剥奪が確定した。知事のLGBT教育方針に同社が不用意な形で疑問を出した事が問題の発端で、ディズニー社へは「なぜこんな馬鹿らしい話にしてしまったのか?」と思われている。
年に一回以下の頻度でどこかの都市で開かれて宿泊施設が大幅に不足するイベントにはスーパーボウルと大統領選の指名全国大会がある。今年のスーパーボウルはフェニックスで開かれたが、近年はAirbnbの広まりで「宿泊施設がない」と言う状態は起きなくなった。
中国の地方政府が財政的にだんだん追い詰められ、一部で「公共バスの運行停止」が起きている。これは政府の手元キャッシュが尽きた事で起こるアメリカの「政府の部門閉鎖」と似た「中国版・政府の部門閉鎖」だ。加え地方政府の外郭団体(LGFV)の隠れ債務の問題がある。
一方、中国の不動産市場の明るい話が出てきた。住宅価格下落が16か月連続で止まり、新築住宅販売件数も前年比で上昇し、碧桂園は土地公売での用地取得を準備している。しかし最大の難題である恒大集団の問題は、解決期限が迫っているのに目途が無い。
ロンドンの住宅市場が複雑化している。一般の住宅には買い手が少ないが、準高額以上の物件は取引が活発化し価格も上昇している。家賃は全般的に急上昇しているが、これはオフィス復帰による需要が急増している為だ。この家賃上昇でロンドンから逃げ出す人もいる。
ヨーロッパで「黄金ビザ」の見直しが進んでいる。アイルランドとポルトガルで制度の見直しがされ、今後は不動産を取得しても永住ビザには直ちにはつながらない。
***ジャパン・トランスナショナル 坪田 清***
http://www.japan-transnational.com/
(以下:参考記事)
ビル:トランプのマンハッタンのビル、空室増加でレンダーウォッチに
(ブルームバーグ) 2023.2.11・土)
ドナルド前大統領のマンハッタンの72階建てのビルの空室率が18%弱へ上昇した事から、サービサーのウエルスファーゴが「レンダーウォッチに置く」と通知した。2015年の融資契約によるもので、残債は1.265億$(173億円)だ。同氏のもう一本の旗艦ビル、トランプタワーは昨年1億$(137億円)のデットを借り替えている。
ビル:ロサンジェルスのビル2本でブルックフィールドがデフォルトを選ぶ
(ブルームバーグ 2023.2.15・水)
ブルックフィールドの子会社がロサンジェルスの2本のオフィスビルでデフォルトする。ローンの額は4.65億$(637億円)と2.90億$(399億円)だ。ブックフィールドはリファイナンスではなくデフォルトを選んだ。ロサンジェルス中心部の空室率は22.7%で、類似のオフィスビルの価値は広く下落している。
ビル:ピムコ系の不動産保有会社が17億$(2330億円)のデフォルト
(ブルームバーグ 2023.2.23・木)
ピムコ系の不動産トラスト社は以前39億$(5340億円)で取得したニューヨーク、ボストン他の7本でデフォルトした。2021年の評価額は22.7億$(3010億円)。最大の物件はサンフランシスコにあり評価額が4.79億$(656億円)だ。築年が古くアメニティが少ないビルは苦戦中で新型肺炎入り前に比べて評価額が20%下落している。
ビル:デフォルトの増加が加速し今後も増加をするとレンダーが身構える
(ウォールストリート・ジャーナル 2023.2.21・火)
ブルックフィールドがロサンジェルスの2本のビルで7.5億$(1030億円)をデフォルト、RXRはマンハッタンのビルで債務リストラの協議に入り、リレイティッド・コスもロングアイランドで似た協議に入っている。毎月5-10本のビルがデフォルト・ウォッチに入れられている。CMBSの支払い遅延率は低いが徐々に増加している。
ビル:商業不動産市場が凍え、CMBSも激減
(ブルームバーグ 2023.2.18・土)
CMBSの年初からの発行額は42.7億$(5850億円)と前年同期の293.8億$(4.03兆円)から急減した。金利の上昇に加えて最近デフォルトが相次いでいる事から嫌気されている。主なデフォルト話にはブルックフィールドのロサンジェルス所在の2本のビル、トランプ氏のマンハッタンのビルのレンダー・ウォッチ入りがある
ビル:商業不動産指数の空売り、モール主体からオフィスへ広がる気配
(ブルームバーグ 2023.2.18・土)
ニュージャージー州の超巨大モール、アメリカン・ドリームへのローンのレンダーはデフォルトした3.89億$(533億円)の支払いを求めて訴訟を起こす。ロサンジェルスのモール、ウエストフィールドでは売却が実らなかった場合には差し押さえが予定されている。カラ売りにはCMBXが使われているが、オフィスをカラ売りする為にはオフィスの比重が大きいCMBXシリーズ13が主に用いられ、今後一気に問題が噴き出す可能性がある。