ブラックストーン、今度は機関投資家向けファンドのBPPで問題が表面化

 ブラックストーンは去年の暮れにBREITで償還を一時停止するとして大騒ぎになった。

 その騒動がまだくすぶる中、今度は同社の別の不動産ファンドBPP(ブラックストーン・プロパティーズ・パートナーズ)での償還請求の問題が表面化した。

 

 ブラックストーンの言い分に従えば「どちらの話も問題はないのにメディアはネガティブに伝え過ぎだ」なのだが、同社の両巨頭はあちこちのテレビ等に出て、訴えている。

 これで済めばいいのだが、人間の心理は時として非合理的に動く。

 本当は健全な銀行や健全な会社でも、「心理」や「風聞」で潰れる事がある。

 

 BREITがおかしくなったのは昨年春だ。

 

 商業不動産価格の下落開始と共に年初から上場リート株が急落、一方、BREITは自社の評価方法で保有物件の価格を算出し、投資口の価格はさほど下げずにいた。

 これをおかしいと見たのがアジアの投資家勢で彼らは一斉に償還請求に入った。しかしBREITにおけるアジア勢の割合自体が小さく、この時の償還請求は話題にはなったが問題化はしなかった。

 その後、現物の商業不動産の価格下落が鮮明化した時もBREITは投資口価格を余り下げずにいた。実際、BREITの設計(哲学)はこれで良いのだ。機関投資家のみが可能だった大口不動産(のうまみ)を個人富裕層でも投資できるサイズに小口に分けて提供する目的で設計されているので、そもそも原資産が流動性が劣るのだからBREITも流動性が低くなるのは当然というわけだ。保有不動産の価格の上下を直ちに投資口の上下に結び付けるという設計の商品ではない。

 しかし一般の心理としてはブラックストーンの理屈はそうでも、「リートがこれだけ値下がりしていて、商業不動産市場もこれだけ下落しているのに、BREITの投資口価格が横ばいとは変ではないか?」となってしまう。BREITから引き出して上場リートを買えば、簡単にさや抜きができてしまうではないか。

 

 今回表面化したBPPは同じ償還請求の話ではあるが、問題が異なっている。

 このBPPは「カントリー・クラブ制」と呼ばれるタイプのファンドで、メンバーが出資の償還を受ける為には、新たなメンバーの加入なり既存メンバーの追加拠出がいる。

 現在、抜けたいと言っているメンバーシップの合計額は50億$(6500億円)だ。BREITが個人富裕層向けであるのに対して、BPPのメンバーは全て大口の機関投資家だ。

 ここでもこれはBPPの設計通りで、償還請求がたまるのも想定内なわけだ。

 

 問題はBREITなり、BPPの問題というより、もう少し根が深い。

 BPPに出資しているのは機関投資家、これらはどこも「アロケーションの基準」を持っている。株安により運用資産の絶対額が減り、またアロケーションの歪みを直す必要がある出資分を削減する先として狙われるのが、「プライベートエクィティ」であっても「不動産」であっても、「ブラックストーン」が引っかかってしまう。

 

 10年続いたイージーマネーの時代が終わり、「ファンド」の資金収集力は傷つき始めている。

 ブラックストーンは「300億$(3.9兆円)ファンド」の満額調達をあきらめかけている。

 カーライルも「220億$(2.9兆円)ファンド」の集まりが悪く、締め切りの延長をした。

 アポロの資金調達も順調にいっていない。

 

 今年に入ってからのブラックストーンの取引関係を洗ってみよう。

 

「トロントの物流施設の取得、4億C$(400億円)」

 *物流施設はBREITが重点投資している。 

  わざと高く買ってこれを比準に使い、BREIT保有物件の評価を高めていないか?

 

「ラスベガスのMGMグランド他の売却」 

 *これには疑わしい点は見えない

 

「スタイブサント・タウンで敗訴」

 *6000戸について家賃安定化の対象との判決、敗訴に伴う評価減が発表されていない

 「ブラックストーンは思われていたほどは政治に強くない」という印象がついた。

  ブラックストーンにかかっていたオーラが消えた。

 

 過去のブログ:ブラックストーンが不動産ファンドのBREITで償還を制限し、波紋