筑駒(教駒)で私が受けた授業はこんなだった:『世界史』

 世界史の先生は都立戸山高校からいらしたばかりの先生だった。当時の教駒の社会科の先生は非常に左寄りの先生から非常に右寄りの先生までいて、新しく来た世界史の先生は「こんな社会科ですから議論がまとまるはずがないです」と嘆いていらした。

 しかし先生の授業はとにかく詳しすぎて進むのが遅く、西洋史はエジプト・ギリシャ・ローマ、中国史は唐に入ったところで一年が終わった。

 

 夏休みだったと思うがテーマは自由というレポートの宿題が出て、私は渋谷の本屋で世界史全集の中から「フランス革命」を選びレポートを書いた。「レポート」というより本の「抜き書き」だった。ルイ16世とマリー・アントワネットが処刑されるところでレポートの規定枚数に達した。そこから先は読むわけがない。

 驚いたことに先生は私のレポートを「見方が斬新だ」とか、絶賛した。私はなんでこんなに褒められるのか分からず、歴史に詳しく後に同志社大学の教授になった同級生に理由を聞いた。

 彼によれば私がたまたま選んだ世界史全集は最近、新しく出たばかり物で先生はまだ読んでいないのだろうとの事だった。もう一つ私のレポートでユニークだったのは固有名詞の表記で、例えば普通は「ロベスピエール」と書くところを、この本の著者は普通では見られない表記をしており、これも評価されたのではないかとの事だった。

 

 40才くらいの頃パリとニースへ出張した時に、カンヌまで足を延ばした。ニースからカンヌへの途中、ガイドさんが坂道の入り口で車を止めた。我々は車から降ろされ「ここがナポレオンが100日天下の時に進軍を開始した坂道です」だとされた。彼は誇らしげだった。

 

 社会人になって教養がなく恥ずかしい思いをした事は何度もあるのだが、この時もそうだった。せっかくレポートで選んだフランス革命はルイ16世が処刑された後、どうなったのかを全く知らず、「ナポレオンの100日天下」も聞いた事があるかないかという程度、どんな話なのかを全然知らない。この時の私にはどう見ても「ただの坂道」にしか見えなかったのだった。