私は公立中学を卒業して教駒(現・筑駒)へ高校から入学した。高校一年生の時に最初に受けた数学は、「互いに素」に徹底的にこだわる授業だった。
授業の冒頭で先生は「互いに素」を「sq+rt=1となるqとtが存在するsとrを『互いに素である』と定義する」とした。これは中学生の頃に教わった定義と著しく異なって見えたが、この2つの定義は同じである事が了解できた。
さらに「互いに素」を「sq+rt=1となるqとtが存在する」と定義した方が、はるかにいろいろな論を組み立てやすい事も了解できた。
先生は半年だったか1年だったか、様々なケースについて論を重ねてこれらのケースで「sq+rt=1となるqとrが存在する」事を導き出し、「これらは互いに素である」との結論を導き出した。
この授業は理数系好きだった私に大変フィットし、先生の授業は面白くまた最後まで付いていく事が出来た。
後年、調べると自分が勝手に思っていたのとは違い、これは有名な「整数論」ではなかった。何というジャンルの話だったのか、数学に進んだ教駒の友人にいつか聞いてみようと思いながらも聞きそびれている。私たちが教わったのは「論理的思考能力を鍛え、いかに能率よく思考を進めるか」というトレーニングであったような気がする。
就職した不動産会社である時、「会社法逐条解説コメンタール上・中・下」を通読、「法人税法基本通達コメンタール」は業務に関連する部分だけを読んだ。この時の勉強のおかげで、私は理科系の出身でありながらもある時期「会社法」と「法人税法」の両方に通じている、社内では稀有な人間となった。「会社法」は法律畑、「法人税法」は経理畑の人間、普通は片方しか知らないのだ。
私がこれらを何の苦もなく楽しみながら習得できたのは、「互いに素」の議論を16才の時に徹底的に鍛えられたお陰ではないかと思う。
「会社法」も「法人税法」もロジックが90%を占め、これは「互いに素」に通ずるのだ。