今回のブログは2022年7月16日のブログの続編だ。
中国のマンション販売は図面売りで契約時に販売価格の全額を支払う。モーゲージ(住宅ローン)も契約時に融資が実行される。ところが2020年までの7年間の実績では、竣工して引き渡された物件は60%しかない。
かなりの割合で工事は遅延するどころか、完全に停止している。しかし約定では工事が停止していても購入者はモーゲージの返済を続けなくてはいけない。
これに腹を立てて返済をやめる(ボイコットする) とあるグループがSNSに書き込み、これが猛烈な勢いで広がった。社会の安定を損ねかねないため、政府は書き込みの検閲や削除と同時に、銀行に対してデベへ融資して工事が進むように求めている。
ここ数年、周期的に起きていた不動産関連の問題の中の新パターンで、今のところ問題となる融資の額はさほど大きくないとも言え、過去と同様に「絆創膏」で乗り切れるという見方がある。
一方、今回の問題が他の分野の返済ボイコットに拡大してしまう恐れがある。「下請けや部資材会社はデベが支払ってくれないので自分もローン返済する金がない」「マンションが値下がりしたので借金は返さない」「新型コロナ対策で店を閉じたので借金を払うお金がない」といった具合だ。
2020年のデベ向け融資規制により信用収縮が起きることは当然で、どのような手段を打とうとどこかが綻ぶことは避けれそうにない。
従来は「共産党支配の結果、我々は豊かになっていた」ため、黙従・黙契があった。この信頼関係への疑問が「共同富裕」が目指す社会の中堅層から噴出し始めている。習近平氏の3期目就任を問う共産党大会はこの秋である。
<<以下、この問題にご興味がある方へ>>
モーゲージ危機:支払い済みのマンション工事が遅れ、モーゲージの支払い拒否
(BB 2022.7.13・火)
中国では図面売りマンションの購入時に借りたモーゲージの実行も受けて代金の全額を支払う例が多いが、デベによる建設工事が遅れて長引いている為にモーゲージの返済を拒む動きが広がっている。中国全土の22都市、35プロジェクトで工事遅延か不動産価格の下落でこのような事態が起きている。
モーゲージ危機:図面売りのモーゲージ返済を拒む買主がさらに増える
(BB 2022.7.14・木)
マンションの工事が竣工しない事に不満を持ちモーゲージの返済を拒む人間が急増している。月曜には28プロジェクトだったが火曜日は58、水曜は100へとなった。銀行株指数は3.3%、デベ株指数は2.7%の下落をした。近隣の物件は過去3年の販売価格よりも平均15%低い値段だとされ、こちらも火種となる可能性がある。
モーゲージ危機:ローン返済ボイコットで不動産危機がスパイラルに
(BB 2022.7.15・金)
価格、販売数、着工の全てで不動産は悲惨だ。ゼロコロナ政策で住宅への需要も落ち込んだ。西安市では物件の引き渡しが出来ず社会的な問題を起こしたデベは罰するとした。中国では家計資産の70%は不動産として保有され、銀行の貸付金の不動産向けの割合も、地方政府の歳入に占める土地売却の割合もともに30-40%なのだ。
モーゲージ危機:中国の当局、銀行群を招集して緊急ミーティング
(BB 2022.7.19・木)
銀行株とデベの社債の下落で金融当局は緊急会合を開いた。当局は「不良債権額を増加しても融資を緩める」と「社会の安定」のジレンマにある。デベの危機は碧桂園の様にかつては安全とされていたデベにまで広がり、新しい段階に入った。デベ群が2013-20年の間に竣工前販売した物件で引き渡しがされているのは60%しかない。
モーゲージ危機:返済ボイコットによる不良債権は3.12億$(**億円)
(BB 2022.7.15・金)
モーゲージ支払いボイコットに伴う不良債権の額を、中国の各銀行が明かにした。額で最大の農業銀行が6.6億元(**億円)、工商銀行は6.37億元(**億円))等で、建設銀行、中国銀行、交通銀行は額を明示しなかった。
モーゲージ危機:ローン返済のボイコット状況が検閲により削除される
(BB 2022.7.15・金)
全国的な広がりを見せているローン返済のボイコット数等の共有ファイルを運営しているプラットフォームに対して、これらの数字を追いかける事が禁止された。この共有ファイルは工事遅延によりモーゲージ支払いを止めようとする人間にとって主戦場であり、また世界の投資家や銀行群の貴重な情報源だった。
モーゲージ危機:当局が返済ボイコットという反乱を抑えようと模索
(WSJE 2022.7.18・月)
当局はSNSを監視し、銀行にデベ向け融資を指示している。300プロジェ、クトでボイコットが発生しているがこれには恒大集団や佳兆業のようにドル建て債でデフォルトした会社も含まれている。問題となるモーゲージの総額は1500-3700億$(**兆円)で比率的には大きくはない。中国ではモーゲージの事故率は極端に低い。
モーゲージ危機:中国の不動産危機はどこまで根深いのか
(BB 2022.7.19・火)
今回のローン返済ボイコット騒ぎは6月末に900人の署名が景徳鎮の恒大集団の物件でされた事から始まり急速に全土に拡大した。工事が遅延している物件の床面積は2470万㎡(**万坪)と見られていて、これは昨年の全販売面積の10%に当り、2013-20年の間に事前販売された物件の60%しか引き渡しに至っていない。
モーゲージ危機:河南省、返済ボイコットに対処するファンドを設立
(BB 2022.7.20・水)
河南省は政府系デベと合弁で不動産セクターの救済用のファンド、「河南資産管理」を設立して資金難に陥ったデベを救済し、ローン返済ボイコット問題に対処する。重慶や寧波も同様な検討に入っている。河南省のファンドでは短期債での資金調達がうまく行っていない。同省では月初に「銀行詐欺」が発覚、預金者の怒りを買った。
モーゲージ危機:デベの下請け工事会社等もローン返済をボイコット
(BB 2022.7.20・水)
デベの下請け等の数百社がデから代金が支払われないため、自分も支払いをする余裕がないとしている。あるグループはオンラインで「我々は全ての銀行ローンや未払い金の支払いを停止すると決めた。同業の方々にも借入金や請求書の支払いを停止する事を勧める」とした。ある借り手を救済すると他の全ての支払いが止まる。
モーゲージ危機:習近平が直面した返済ボイコットという予想外の反乱
(BB 2022.7.20・水)
IT会社、香港。上海のロックダウンといった強権を発動して来た習近平は中流階級の住宅諸湯者達の反乱にあっている。中国では家計の富の7割だが不動産だと言われ、住宅は一家の全資源を投入して買い、これがマイナスの資産になると「生きるか死ぬか」の問題になる。習近平の目指す「共同富裕」の層の反乱なのだ。
モーゲージ危機:習近平が返済ボイコット鎮圧の為に巧みなアメとムチ
(BB 2022.7.22・金)
当局は検閲の一方、銀行に融資をさせようとしている。中国は大衆の不満への対処には慣れているが、今回は抗議運動は局所的ではない。返済猶予を認めれば返済をしようとしない人も増え、下請け会社や部材業者、失業者や商店を閉店した人、新型肺炎の際の政策に不満を持つ人等にも広がれば問題は手に負えない物になる。
出典:BB=ブルームバーグ、BBC=BBC、NYT=ニューヨーク・タイムズ、
FTE=フィナンシャル・タイムズ電子版、
WSJE=ウォールストリート・ジャーナル電子版