ウクライナ危機はロンドンのラグジュアリー不動産市場を直撃するだろう

 ウクライナ危機から最も大きな影響を受ける不動産市場は、ロンドンのラグジュアリー住宅市場だ。ロンドンは旧ソ連崩壊時に積極的にロシア人を招き入れ、その他の世界中の怪しげな資金も呑み込んで大きくなった。ロンドンの不動産は彼らにとり「資金の手軽で安全な隠匿場所」だった。

(末尾に関連記事)

 

 イギリスの2021年の住宅市場は、この20年間で最大の上昇だった。

 

 パリで1640年築の住宅が2億€(256億円)で成約した。江戸時代初期の築になるが、アメリカでは建築年代が古い住宅でも大抵は江戸時代末期までであり、さすがパリだ。

 

 アメリカ人の我慢が爆発して春から夏にかけ、大きな旅行ブームとなりそうだ。特に大都市を訪れる旅行の需要が強くなる見込み。レンタカーは既に予約打ち切りの所が出ている。

 ホテルはレジャー客の復活が先行していたが、ビジネス関係も復活を始め、ビジネス・イベントや団体客も「予約レベル」では2019年の水準を超える状態になった。

 

 オフィスは着々と復活へ向っている。オフィスを最も重視しているセクターは意外な事に大手IT会社群だ。メタ、グーグル、マイクロソフト、アップルはオフィスを拡張中。

 

 リモートワークでは新入社員教育の難しさがさんざん指摘されてきたが、当のジェネレーションZ(現在24-25才以下)達は年長者の心配をよそに彼ら流の方法で馴染んでいる。

 

 中心部への人出の減少や電車の乗客の減少で、大都市の治安が悪化中だ。ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルス、シカゴ、シアトルで発砲・殺人事件が増加している。

 

 アメリカでは481の市で典型的な住宅の価格が100万$(1.17億円)を越す状態となった。このような市の数は昨年一年で146か所も増えている。ニューヨークの周辺部のいわゆる「エリート・タウン」と呼ばれる地域では、100万$(1.17億円)という物件の売りはほぼない。

 

 住宅の入札合戦は一段と激化し、現在はオファーの70%で入札合戦となっている。市によっては80%以上が入札合戦だ。最近は賃貸物件でも入札合戦となる例がある。

 

 デパート最大手のメイシーズは一時はシアーズに続く凋落かと懸念されていたが、売上げが新型肺炎前の水準に回復した。データアナリストや価格サイエンスの貢献が大だ。

 

 道沿いに見られる「ドライブスルー(車路)付きファーストフード店」の、店舗用不動産に人気が出ている。新型肺炎でレストランが閉鎖中の為にテイクアウト需要が増えた、あるいは郊外に転居したらこういう店が便利、といった事情からこの手の店が繁盛している。

 

 IT不動産会社大手株が軒並み冴えず、市場は好調だったのに4社の株価は平均58%下落した。最近まで有望とされていたIT不動産ベンチャー各社もベンチャーキャピタルからの人気が冷え、「不動産とITの相性」に疑問が出ている。ITバブル崩壊時と似た面がある。

 

 5億$(585億円)という値札が付いていたロサンジェルス近郊のウルトラ豪邸建売は、借金のカタのオークションの結果、1.26億$(147億円)で落札された。オークション手数料を含めると1.41億$(165億円)だ。買主はファースト・ファッションのオーナー。

 

 香港では新型肺炎の蔓延が大拡大し、香港人や駐在員が大挙して逃げ出す事態となっている。これに中国政府による締め付けを嫌って拠点を香港から外へ移そうという外国企業の動きも重なり、「アジアの金融のハブ」の座が維持できるか現実的な問題になってきた。

 

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<<ウクライナ危機がロンドンの不動産市場を直撃するだろうとの見込み関連記事>>

ウクライナ危機:議論されるロシア人の資金はイギリスにどれだけあるか 

(BBC 2022.2.16・水)

 ロシア人富豪が好む為、ロンドンには「ロンドングラード」というあだ名がある。ロシアからの資金は世界を迂回して合法的に投資されているが、50億£(7650億円)以上の不動産については20%が「疑わしい資産」だった。イギリスの不動産を持つオフショアの700社のうち5%がロシア国民が所有する会社だった。

 

ロシア人:ロシアへの厳しい姿勢はロンドンの不動産市場を変えうる 

(フィナンシャル・タイムズ電子版 2022.3.4・金)

 オリガリヒ達は簡単で安全で目立たないのでロンドンの不動産を「お金を留め置く場所」としてきたが、これが閉ざされそうだ。政府による制裁対象はプーチンに近い少数のオリガリヒだが、不動産市場は短・長期的の影響を受ける。真の所有者は誰かも追及されてオリガリヒはあぶり出されるだろう。ロシア勢が高額物件を多く買って市場をけん引する動きは以前は大きかったが今は弱まり、香港、中国、中東勢が大型取引の裏にいる事が多い。

 

ロシア人:英当局、ロンドン所在のロシア人所有のラグジュアリ―住宅に着目 

(ブルームバーグ 2022.2.25・金)

 ロシア人保有のイギリスの不動産は登記上は1127件とされたが海外法人所有の物件は8.5万件もある。2016年以降、15億£(2300億円)が汚職の告発を受けたかクレムリンへの繋がりを持つかしており、その55%はイギリスの海外領で登記された会社が保有している。ロンドンには世界中から人が来るインターナショナルさだ。

 

ロシア人:英のラグジュアリー住宅人気を脅かすオリガルヒへの取り締まり 

(ブルームバーグ 2022.3.1・火)

 近年はロンドンのラグジュアリー住宅に世界中の富豪が集り、昨年は外国人の購入額がニューヨークを抜いて世界最大だった。ロシア人がロンドンで買い始めたのは20年前からで、好みの地区はイートン・スクエア(ベルグラード内)やセント・ジョージ・ヒルズ(サリー内)だ。しかし2014年のルーブル急落以降、買いは弱まっている。

 

ロシア人:ロンドンというロシア人の資金の「コインランドリー」の今後 

(フィナンシャル・タイムズ電子版 2022.3.5・土)

オリガリヒがマネーロンダリングで好むのでロンドンのあだ名は「ロンドングラード」「ロンドン・コインランドリー」だ。クレムリンや汚職に繋がるロシア人の購入と判明したイギリスの不動産は150件、15億£(2300億円)。冷戦終了後にいち早くロシア企業に門戸を開き、ロシア人のビザ取得も容易にしたのでロシアからの投資が多い。シティもロシア人を歓迎、2005年以降で40社が上場、社債や国債もロンドン市場で発行されている。