中国とアメリカの板挟みになる企業が増えている。今回、挙げられたのはファースト・リテイリング、ウォルマート、ソフトバンクだ。「ここまで政治リスクを取って投資するほどの魅力は中国からはもう無くなっているのではないか?」という見方まである。
(中国関係:末尾に付記)
一方、政府による緩和で中国経済が本当に救えるのかという問題は残っている。そもそも「不動産市場」がどこまでどのように悪化しているかはまだ不明だ。
一つのほころびは中国の地方政府に見られる、地方政府は財政の多くを土地の公売に頼っているがデベが土地を買わなくなったために、地方政府の外郭団体が買いささえ、「自分が自分から買っている」という不健全な状態だ。
中国政府が不動産に対する規制を緩める方向にあり、デベの株や社債を始め、各所でこれが好感されている。
昨年のアメリカの商業不動産売買高は従来の最高だった2019年を超えた。マンハッタンがふるわなかった一方で、サンベルトの各市が大きく伸びた。機関投資家は年初はあまり買いに入っていなかったが、年後半以降はそれを埋め合わせるかのように活発に買っていた。
ニューヨークのマンダリン・オリエンタルを、インドの財閥リライアンス系の会社が購入した。今回の取引分は73.37%で9815万$(112.9億円)。続けて残余の分も購入し、100%保有とする予定。
ブラックストーンとスターウッド・キャピタルが長期滞在ホテルのウッドスプリング・スィートを15億$(1725億円)で購入した。このペアは昨年、やはり長期滞在ホテルのエクステンディッド・ホテルを60億$(6900億円)で買収している。
マンハッタンの大型ビルが中小規模のビルよりも好調に埋まっているは、テナントにテナント改良工事とフリーレントで巨額のインセンティブを与えているからだった。いずれも以前からある商慣習だが、その額が急激に大きくなっている。
「ハイブリッド型勤務」が実施されている所は多いが実際はあまりうまくいっておらず、生産性がかなり落ちている。経営に近いポジションの人間は「オフィス勤務」、スタッフは「在宅勤務・リモートワーク」を望む傾向がある。
2019年に2.38億$(273.7億円)とアメリカ史上で最高額の住宅取引が起きた超高層・超高額マンション、220セントラルパーク・サウスでまたメガ取引が起きた。今回は2年前に販売・クローズした価格が9300万$(107.0億円)のペントハウスが1.9億$(218.5億円)と倍の価格で転売され成約した。
アメリカの住宅市場はほんの僅かだけ冷え始めている。しかし依然、過熱状態は続いている。都市によってはそもそも売り物件がない。
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**研究会での使用資料から**
中国リスク:ファースト・リテイリングが陥った米中の狭間というジレンマ
(FTE 2022.1.11・火)
ファースト・リテイリングにとって中国とアメリカは共に重要で、中国では先日、上海の自動化倉庫に大型の投資を実施、同社の売上は日本と中国が8割だ。一方、同社の株価は不調で、進出規模が小さいアメリカは今後の重要な市場だ。しかし新彊問題を巡りユニクロの服がアメリカの税関で止められるなど、政治的リスクがある。
中国リスク;ウォルマートのサムズ・クラブを調査
(WSJE 2022.1.17・月)
成都市の当局はサムズ・クラブで販売された牛肉が腐っていたとの消費者からの苦情で、同店を立ち入り検査した。アメリカ政府が中国の新疆地区からの輸入を実質的に全て禁止した事からアメリカ政府と中国政府の間で緊張が高まる中、ウォルマートが新疆地区からの製品を仕入れないとした為に中国のSNSで非難されていた。
ソフトバンク:中国リスクで中国での方針が重要な試練に直面
(FTE 2022.1.19・水)
ソフトバンクは中国のスタートアップの多くに出資、香港市場でのIPOを予定しているが、当局のIT企業への規制が懸念される。ビジョンファンド保有の上場済み中国企業株の評価額は3ヶ月で22億$(++億円)下落。
ソフトバンク:滴滴出行の香港上場に問題が幾つも出る
(FTE 2022.1.12・水)
滴滴出行のニューヨーク市場での時価総額は400億$(4.6兆円)強の減少をした。香港上場によりアメリカ上場株と交換をしたい所だが、IPOで中国当局から難題が出ている。滴滴出行の赤字は1-9月で76億$(8740億円)。
ソフトバンク:アリババ系アントが汚職スキャンダルに巻き込まれる
(FTE 2021.1.21・金)
2020年に中国の規制当局により370億$(4.26兆円)のIPOを中止させられたアントに関し、土地売却と携帯支払いに関わる汚職問題が中国電視台で報じられた。アリババのジャック馬氏の資産は数千億円以上減っていた。
地方政府:数千億円に上る地方政府の外郭団体、「融資平台」による土地購入
(BB 2022.1.26・水)
地方政府が実施する土地公売にデベが応ぜず、その結果、「融資平台」が土多くを落札しているがその多額さから懸念が出ている。2021年11-12月、9つの大都市で公売の半分以上の区画が融資平台で購入されていた。深圳では11月の公売11区画中5区画、180億元(3260億円)が融資平台だ。地方政府の歳入の40%が公売収入だ。
恒大集団:オフショアのボンド所有者達が「法的措置」を警告
(FTE 2021.1.20・木)
恒大集団のオフショアの社債所有者群は恒大集団が「問題解決に対して実質的に取組んでいない」として、実行措置を要求する法的手段を取る事を警告した。社債権者群は昨年10月から「意味がある取組をしていない」として問題視していた。同社の意志決定は曖昧であり、世界で十分に確立している標準と違背しているとしている。
碧桂園:中国最大のデベにまでも売り浴びせが始まる
(WSJE 2022.1.17・月)
つい先日まで安全と見なされていた碧桂園だが、月曜に売り浴びせが始まり社債は20¢、株価は8.1%の下落をした。先週は新発の転換社債に十分な引き合いがなかった。最大手と言えども噂やネガティブな見出しだけでボラタイルな動きになってしまう。ドル建て債は来週満期が4.11億$(473億円)、7月に7億$(805億円)。
デベセクター:不動産デベのドル建て債の下落が820億$(9.4兆円)に達する
(BB 2022.1.18・火
不動産デベがオフショアで発行したドル建て債の額面価格の合計が1510億$(17.4兆円)であるのに対してこれらの現在の市場価格の合計は690億$(7.9兆円)に過ぎず、800億$(9.2兆円)強の下落をしている。積極的な市場抑制策の緩和を行なわないと一段と下落するだろう。国営デベの中国海外発展や華潤にとり買収の好機だ。