ニースのホテルのコンシェルジェで「ルーレットの必勝法を教えてくれ」と頼むと、A4・2枚にフランス語で書かれたものが出てきたのでカジノでその通りに賭けてみた。ある数学者が計算した結果、カジノの各種の制約も加味するとこの賭け方が一番高い確率で勝つと書いてあった。
「赤黒」で「黒」にしか賭けず、外れたら倍・倍・倍・・・と賭けていく方法だ。「連続して7回、赤が出る」という事態が起こらない限り、勝つ。
単純にこれをやると、倍々で賭けるので手持ちのチップが途中で尽きて、大負けしてしまう可能性がある。そこで「3回連続して赤が出る」まで待ち、4回目から出動してそこから「黒」に1枚、賭けるわけだ。外れたらまた「黒」に今度は2枚賭け、これも外れたら4枚、また外れたら8枚、「黒」に賭ける。
これでまだ負けるというのは連続して7回、赤が出たという事になり、滅多には起きない。途中で「黒」が出ればそこで止めていったん台から下がり、また「3回連続して赤が出る」まで待機をする。これを繰り返す訳だ。
待機時間中に確率計算をしてみるとこの方法で賭ければ「とんでもなく高い確率」で勝つのだが、1回のセッションのどこかで勝つ事で増えるチップの枚数はどんなケースでも必ず「1枚」だ。
実際にやってみると、この賭け方は実につまらない。
まず賭けに出動するには「赤が3回続けて出るまで待つ」わけだが、「3回続けて赤」というのは8回に1回しかない訳で待機する時間が非常に長い。「赤と黒のどちらかが3回続く」として逆の事をするなら4回に1回の割合で出動できる。私はある程度チップがたまった時、英語は分からないというふりをして強引に交渉し、通常は10枚単位でしか売ってくれないチップを確率計算上の不足分の枚数だけ買い増しして同じリスクに耐えれるようにし、「赤か黒が2回連続したら賭けに参加」できるようにした。
次に、「とんでもなく高い確率で勝つ」のでは、そもそもギャンブルとしての楽しみがない。これは「賭けている」というよりも「決められた手順で作業をしている」方に近い。
そして「赤黒」にしか賭けないのであるから、あまりにもみみっちい。私の隣に座っていた中国人のおばさんは、私のあまりのみみっちさに腹を立て始めたくらいだ。ここはニースで最高級、ヨーロッパでもトップクラスのカジノだったのだ。
みみっちさの積み重ねでチップがそこそこ溜まり、「カジノ疲れ」というより「待機による疲れ」を感じた。もう全部をさっさと処分してホテルに引き上げようと思い、ルーレットの普通の賭け方でチップを倍の2枚ずつ重ねてあちこちに適当に置いた。その3回目くらいの時に2枚重ねの1つが36倍のジャックポットにあたり、見た事もない巨大なチップが私の前に届けられた。
ジャックポットの時は普通の大きさのチップを1枚、ディーラーにころがして差し上げるのがマナーらしかったのでそうしたら、「2枚重ねがあたった時は2枚よこした方がよろしいのではないでしょうか」とものすごくきれいな英語で私にささやく。
このディーラーはさっきまでフランス語しかしゃべらなかったのだった。
払い戻しを受けに行くと、3万円分買ったチップが8万円になっていた。
(「世界の不動産会社群」から)