歴史を長く見ると、香港へは中国で何かの騒乱があるたびに大量の人間が移住してくるという事を繰り返してきました。不動産市場も過去に「今度こそは奈落の底へか?」と思われた事が何度もありながら、しばらくすると立ち直るという事を繰り返しています。
香港の中国への返還は1984年に合意され1997年に返還、一国二制度となりましたが、この間に北京で天安門事件が発生しています。多数の香港人が国外へ移住し、香港一の富豪はコックを引き連れてバンクーバーへ一時的に避難、このような中では外国人からの投資は停滞し、不動産価格は大きく下がりました。ところがその後、SARSが収まった頃には市場は立ち直っていました。回復した理由は国外から香港人達が戻って来たからです。
2014年の雨傘革命から2019年の逃亡犯条例改正に至る香港での強烈な反中国運動を見れば、やはり外国人にとって香港への投資はためらわれました。この時も不動産価格はいったん下落しましたが立ち直り、直近、2021年の後半では特に高額物件が好調です。
現在の好調な買いの主体は地元の香港勢と中国の富裕層です。
「強気な地元勢」の中の一社は、11月に港に面する土地を508億HK$(7,569億円)で超巨額の落札をしました。今回、香港から国外移住した人の数は前回の香港返還や天安門事件に伴うものよりも多いのですが、香港人の中には「またか」と受けとめている人も多いわけです。
「中国の富裕層」が香港に積極投資している理由はいくつかあります。香港へなら何とかお金を持ち出せます。他の国への場合は当局の監視が厳しいのです。現在の中央政府による「金持ちたたき」はやがて地方政府レベルに下がり、いずれ我が身となる可能性があります。中国で過去に何度も導入が挫折した「不動産税(注:固定資産税)」が今度こそ実現し、自分が保有するマンション等の不動産があまりにも多い事が露見する可能性もあります。
2021年の香港の不動産市場を見てみましょう。
最も高額の住宅売買は隣接する二戸をまとめ買いした12億HK$(179億円)で、「マウント・ニコラウス」という有名なプロジェクトの中にあります。最も高い住宅賃料は月135万HK$(2,010万円)でした。いずれもお金の出所は中国人の富豪の模様ですが、確認はできていません。
小さい方では、以前から「棺おけ住宅」が有名で、これはファミリー用のマンションや空き工場を小さく間仕切りしたものです。最近話題なのは「ナノフラット」という200sqft(5.6坪)以下の狭小マンションで、日本のワンルームマンションとは違い家族でここに住む場合もあります。
駐車場も主に投資用として「一台分」が売買されます。特殊例ですが、6月に先の「マウント・ニコラウス」内の一台分が1020万HK$(1.52億円)で売れました。一般的な駐車場では、2019年にあったオフィスビルの中の一台分の760万HK$(1.13億円)が売買の最高記録です。
(HK$<香港ドル>=14.9円 1月6日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清