みずほ銀行の「ビッグマック指数」のネット上での広告は非常に上手に書かれていると思う。浅学ならが少々補足したい。
私が勤務先の不動産会社で (ロンドン)エコノミスト誌の論調分析を担当していたのは1994年からの5年間で、エコノミスト誌がシャレとして「ビッグマック指数」を発表したのはその直前だ。
みずほ銀行の広告に補足したいのは「通貨の購買力」という考え方だ。一方、「購買力平価(為替レートの比較や決定)」の方は驚くほど上手に説明されていて、さすがにプロは違うものだ。
「通貨の購買力」の算定には、通例は国連食糧機関(FAO)のデータが主に利用されていた。
FAOのデータから「小麦粉何キロ」「豚肉何キロ」「レタス何キロ」・・・について調査対象国全体に一律に決めた「バスケット」を作成、この「バスケット」を買うのにその国の通貨でいくらかかるかを計算して「その通貨の購買力」とする。
ところがFAOはデータの収集から集計、発表までに非常に時間がかかり、これでは遅すぎて現実の金融政策(為替政策)には使えない。
そこでエコノミスト誌が着目したのが世界中に店舗があるマクドナルドだ。
マクドナルドは各メニューに詳細な食材とその量などをマニュアルで規定している。「何個の××ハンバーガーを作る」にあたり、「小麦粉を何キロ」「豚肉何キロ」「レタス何キロ」・・というのが世界共通なのだ。エコノミスト誌は看板メニューの「ビッグマック」を対象とした。
つまり一個の「ビッグマック」においては「小麦粉」「豚肉」「レタス」・・がどの国においても全て等しい、即ち「バスケットそのもの」になっている。従って「ビッグマックの値段」がその国の「通貨の購買力」であると考え、これにより「各国の通貨の購買力の比較」を行う。「その通貨の購買力」と「その通貨の為替市場でのレート」を比較してテーブルに一覧表にするわけだ。
ここから先はみずほ銀行の広告の記事で私が補足する所は全くない。
以下は個人的な思い出話だ。
1997年、東アジア通貨危機が発生した。
東アジア諸国の通貨はフリーフォールとなり、為替相場の見当がつかない状態に陥った。
この時に大活躍したのが「ビッグマック指数」で、これが結構、当たっていたのだった。
そのうち「ビッグマック指数」をアカデミズムの人達がまじめに議論し始めた。あわてたエコノミスト誌は「ビッグマック指数の理論的な問題点」という記事を載せる事態となった。
マクドナルドが低価格路線にかじを切った時も、ビッグマック指数は危機に陥った。日本で言う100円バーガーの時代だ。これではビッグマック指数は「為替や購買力の話」なのか、「国別の同社の販売戦略の話」か分からなくなる。
この時、マクドナルドはビッグマックの価格だけは据え置いた。おかげで「ビッグマック指数」は生き延びたのだが、これはマクドナルドからエコノミスト誌への気遣いか、あるいは打算的に「ビッグマック指数を存続させた方がマクドナルドの宣伝になる」と考えたのかも知れない。
ちなみにこのころ私は読売新聞本社ビル内のエコノミスト誌の東京支局に何回か遊びに行き、記者やアシスタントの方と焼き鳥を食べたりしていた。(追記へ)
ロンドンの編集部に、「なぜいろいろなメニューの中から『ビッグマック』を選んだのか、私はフィシュバーガーの方が好きなのだが」とメールを出したのだが、私の下手なシャレは相手にされなかった。たぶん気分よく「ビッグ」だから選んだんだと思う。
(2021.4.4追記:焼き鳥の店を思い出した。子ブッシュが来日した時に小泉首相と行った西麻布の権八だ。当方が持つつもりで行ったらエコノミスト誌の方が「取材費だ」として奢ってくれた。)
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