後書き・3 建築規制を守ればだいたいその通りのものが建つという幸せ

 不動産開発において「規制が読めない」という点では、ニューヨークは東京と比べると悪夢のような面がある。

 

 ある超高層マンションでは建築許可が下りた後に住民運動により容積率が変更されてしまい、新しい容積率では計画していた高さのマンションは建たない。新しい容積率が有効となる日の前に「基礎工事が完了」していれば、取得済みの許可により計画していた超高層を建てることができたので、デベは業者に土日を返上して工事を急がせたが、結局、間に合わなかった。

 

 別のマンションでは超高層マンションの建築許可を下した際に容積率移転(空中権)手続きに瑕疵があったとしてニューヨーク市が住民運動から訴えられている。建物の工事は骨組みがかなり上まで達していて、裁判所の判断によっては上部の鉄骨をばらして降ろすことになりかねない。過去に実際にこのようなはめに陥った実例がある。

 

 許認可のプロセスも日本人には分かりにくい。

 

 ある程度以上の規模の開発においては、役所からどれだけの、どのような「インセンティブ(優遇措置)」を獲得できるかが事業の採算面で非常に重要となる。「割安な家賃の住宅を何戸か設ける」「公園整備費用を一部負担する」等の条件を受け入れる代わりに、「税金の控除を受ける」「地下鉄を延伸する」等のインセンティブを得るわけだ。これらはケースバイケースで決まる。

 

 この許認可プロセスについての疑わしい話が先日、表面化した。ニューヨークの大手デベ3社それぞれが許認可手続きで行き詰っていた時に、市長のデブラシオ氏から各社に電話がかかり、氏の政治団体への献金が求められたというのだ。3社は合計で25$(2700万円)を寄付している。

 

 これらと比べると、東京では法令等に従ったものであるなら、おおむね建つ。もちろんそんな簡単なものではないと言う面もあるが、法令に沿っていれば原則としてその通りに建つというのはありがたいことで、世界の大都市ではこれは例外なのだ。

 

 ちなみに東京の住宅価格は世界の大都市と比べてまだかなり割安なのだが、海外の目はこれを新築マンションの供給が潤沢であるためと考えている。どのような建物を建てることができるか、デベにとって予見可能なことは日本でマンション事業が行いやすい理由の一つだろう。積極的な容積緩和策も供給を後押ししている。

(「世界から日本の不動産を知る」・20201月刊から)

 

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