データによるとアメリカにはホテルは56,300棟あり、うちブランドに属するものが61%、独立系が39%だ。ここでは後半で世界最大のホテル会社、マリオットを見てみたい。
ホテルビジネスへの新型コロナウイルスからの影響は甚大だが、明るさも見えてきた。まず復活したのは近場でのんびり過ごすという小旅行で、「ステイケーション(ステイ+バケーション)」と呼ばれている。個人のレジャー目的の旅行もかなり回復した。自分の別荘があるのに高級リゾートホテルに逃げ込んだ富裕層がこのホテルを気に入り、2020年の年内いっぱいは泊まりたいとする例が各地で発生、これも「ステイケーション」と呼ばれている。
ビジネス客は出張がオンラインの面談で済まされるとの予想から減少が不安視されているが、リモートワークは「しろかき、田植え、稲刈り」のうち「稲刈り」だけやって「生産性が高い」と言っているような面があり、いずれは出張をせざるをえなくなると思われる。コンベンションをオンラインで開催するサイトも登場しているが、成果は不明だ。
今、アメリカでホテル選びの際に最も重視されているのは「衛生面」で、新型ウイルス問題から宿泊客が過度に神経質になっている。次に重視されているのが「安全面」なのだが、何かと不安心理に陥っている人が多い状態である。
本論に入ろう。
マリオットは部屋数が138万室・7349棟と世界最大で、今も規模拡大中だ。2016年にホテル準大手のスターウッドを買収、それまで拮抗していたヒルトンに大差を付けた。
経営するブランドはウェスティン、シェラトン、リッツ・カールトン、セントレジス等、30もあるが、これはスターウッド時代のブランドを全て残したためである。
「138万室」「30ブランド」という巨大さのメリットをあげてみよう。
これだけ大きいと、どの都市に行っても自分の予算に合ったホテルがほぼある。またある都市にマリオット系が既に進出済みである場合、同じブランドのホテルを出すと共食いになりかねないが、別のブランドで進出すればこれが避けられる。
さらにマリオットはポイント制の「ロイヤルティ(常連客優遇)プログラム」を非常に充実させた上、直接予約したメンバー客には高いポイントを付与するようにした。
ホテル業界は一時期、オンライン旅行サイトに集客を大きく食われ、彼らに高い手数料を払っていた。おまけに彼らはこちらのホテルを勝手に目玉商品として安売りし、ホテル側が進めていたブランド戦略がぶち壊しとなることがあった。
しかし多店舗化やポイント制、ほかの合わせ技によりマリオットでは宿泊客からのダイレクトな予約の獲得が増え、これが大きく収益に寄与した。
その代わり、コンピュータの予約システムがモンスター級になってしまい、莫大な維持費がかかっている。買収したスターウッドのシステムとの統合は未だに完了していない。
この維持費を「薄める」最も簡単な方法は規模の拡大だ。マリオットは今年年初から8月までの間に世界で163ホテルを新規オープンさせた。年内には200棟前後にはなる。
これほど多くの新規ホテルをオープンできる秘密は、2つあるようだ。
一つは開発や運営の徹底したマニュアル化で、あるブランドのマニュアルは10万ページだったという。これでもデータ量としてはCDロム1枚である。
大規模拡大が可能なもう一つの理由は「ホテル経営」と「ホテル用不動産」の分離である。
ある時から、「セールス&リースバック」、即ち「不動産部分をリース会社に売却しリースバックを受け、ホテルをそのまま続ける」ことがはやり始めた。保険会社や投資ファンド、さらには「リート」を設立してそこへ一括して卸し、リースバックを受けるようにもなった。
土地の所有者に開発マニュアルを渡してスペック通りの建物を建ててもらい、マリオットはそれを賃借してホテルを経営するというパターンもでてきた。
さらには土地・建物の所有者がマリオットとフランチャイズ契約をし、ライセンス料を払うという例も多い。この場合、ホテルの経営主体はフランチャイジーである。
不動産を保有しないことによりホテル会社の財務体質は随分と軽くなったのだが、それでもかなりの借金がある。ホテル業というのは想像以上にお金がかかる。
ホテル会社が不動産を切り離す例はアメリカで顕著だ。ヨーロッパ最大のホテル会社のアコーは多額の不動産を自社所有しているが、現在不動産の切り離しを進めている。