三井不動産のような会社に40年も勤めていると、いくつもの貴重な経験ができる。
私にはまったく身分不相応であるニースの五つ星「ネグレスコ」で二泊、パリの四つ星「インターコンチネンタル」で四泊したのもその一つだ。
住宅インテリアの子会社が「ヨーロッパの本物の家具を見る」というツアーを企画、これに相乗りさせてもらった時に泊まった。10人強のツアーだった。1992年の事だ。
この時の私の主目的は「ユーロ・ディズニー」の情報集めだった。
「東京ディズニーランド」はもし失敗した場合はオリエンタルランドの1000数百億円の借金のツケが全額、三井不動産に回ってくる枠組みだった。
当時、第二パーク(後にディズニー・シーとなる)の検討が始まっていた。私たち担当はオリエンタルランドに対して同社の保有地で当社と共同事業することを強いず、同社を同社の希望通り上場させる事がベストだと具申、トップの了解を得た。担当として同社が上場可能となる為の阻害要因をいくつか除去したのだが、それらの中では「1枚の紙キレ」の処理が最も難しかった。
「ユーロ・ディズニー」は事業の枠組みの参考になるかと横目で見ていたのだが、よく分からなかった。その後、どうでも良くなったわけだが、私はパリまで行く事にしたのだった。
最初に泊まったインターコンチネンタルはすごい格式で、ツアコンの方になぜ「五つ星ではないのか」と聞くと「団体客をとるから」だそうで、つまり私みたいなのが泊まっているために星がひとつ落ちているわけだ。
フロントとかコンシェルジェまわりのスタッフはまるで「最高級のベルベット」のようで、ヨーロッパのベストのサービスとはこういうものかといたく感心した。
バスルームは12、3畳はあろうかと言う広さで非常に寒い。ラジエターのスイッチを探していると風邪をひきそうなので、すぐに風呂を出た。
ネグレスコはセレブが泊まるホテルであり、我々のようなクラス(階級)の人間が泊まっているのは場違いだった。客室の中には「ルイ14世が使ったベッド」の部屋がある。同行者の部屋のベッドは天蓋付きで、おまけに小柄な彼女にとっては這い上らなければいけないくらい高いところに寝床があった。
ホテルの女性オーナーの趣味がアンティークの家具集めで、それらが調度品として使われているのだそうだ。
支配人の方と二回、話ができ、うち一回はそこそこの時間、雑談をさせてもらった。
ネグレスコのエレベータは扉が左右ではなく両開きで手前に開く。日本の新婚さんがこれにぶつかり、付け根の回転軸の部分が壊れてしまって修理に莫大な費用がかかったとぼやいていた。たぶんあまりに古いので扉をまるごと作り直したのではないかと思う。
モナコのオテルド・パリのボールルームは全面大理石貼りなのだが、全ての柱の胸の高さから下の大理石がむしり取られている。パーティーの出席者がお酒を片手にむしってはがすのだそうだ。支配人は、誰もこんな部分は見ないのでこのままにしてあると平然としていた。
タクシーで「モナコ・グランプリ」のコースを一周した。道がそんなに広くなく、さらに例のカーブがとんでもなく鋭角なことには驚いた。
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