アメリカ全体では不動産市場が好調な中、マンハッタンの市場が恐ろしいほどの速度で悪化している。
アメリカでは新型肺炎でいったん急落した既存住宅販売が8月は24年ぶりの高水準となり、新築住宅販売も100万戸、ホームビルダー群のコンフィデンスは過去35年で最高水準になった。
ところがマンハッタンについては、恐ろしい話ばかりなのだ。
オフィスだが、「サブリース」が急増していて、新規賃貸市場にかなり影響を与えそうだ。「サブリース」とは残存期間が残っているリースのテナントによる「また貸し」だ。期間が短く通常より安い賃料で貸し出される。多くのテナントがオフィス床の削減を図っている。
在宅勤務からオフィスへの復帰率を比較すると、全米でニューヨーク市が最も低い。通勤にマストラを使わざるをえず。感染を恐れている人が多いからとされている。
私に言わせれば、これはウソだ。オフィスにいるより在宅勤務の方が楽だからだろう。子供をあやしながらやベッドに寝転んでする在宅勤務の方が生産性が高いというのは「ファンタジー」、みんなで作り上げたフィクションであり、作り話であると分かっている人は多い。
当たり前の話である。
賃貸マンション市場では「実質値引き合戦」が激しくなっている。各種の実質的な値引きを「コンセッション」と言い、主たるものはフリーレントとテナント負担の仲介会社手数料を家主側の負担とする事だ。フリーレントは従来は1ヶ月で、仲介手数料は年間家賃の15%程度だ。ほかにもいろいろなおまけがある。
しかしフリーレントについて、とうとう交渉のかけひきの材料ではなく、最初から「3ケ月フリーレント」と提示する所が出てきた。戸数が多い大型マンションほど、大きなコンセッションを得やすい。全米全体では家賃はまだ微増中で、下落しているのはニューヨーク、サンフランシスコ、シアトルなど、一部に過ぎない。
分譲マンションは元々は新築と中古の区別をしないお国柄なのだが、新築はラグジュアリー路線に走ったデベが多すぎ、二、三年前から悪化が鮮明となった。現在は一段と悪化している。高級路線もよいのだが、価格がどうみても高すぎる。
数的にははるかに多い中古住宅(既存住宅)市場の状況を整理すると次のような次第だ。
「大都市からエクソダス(大脱出)が起きた」という話は、実際はニューヨークとサンフランシスコで起きただけだった。
マンハッタンから引っ越した理由の中には新型肺炎の「密」を避けたいというのもあるが、多いのは手ぜまであることだった。在宅勤務スペースの問題と子供(幼児)の成長だ。
今回マンハッタンで起きたエクソダスは、いずれは引越ししようと考えていた人たちの「前倒し」の部分の方が大きく、数で見ると3年分が前倒しされていた。
このような引越しの増加が起きたにもかかわらず。マンハッタンの中古マンション価格は下がっていない。市場在庫数は減少気味だ。
たぶん引っ越した人は値引いて売るくらいならまだマンハッタンに足場を持っていたいと考えているのだろう。マンハッタンに住む事はそれほど魅力的なのだ。
世界中を探しても、引っ越した人間にここまで未練を持たせる都市というのは、そうはない。
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