(本稿は2020年3月15日に執筆したものです)
アダム・ニューマン氏が率いてコワーキングから出発したWeWorkは昨年IPO・新規上場で大失敗をしたが、この流れを振り返りたい。なお為替は全て$=100円で換算してある。
WeWorkの失敗を数字で確認する。2019年1月、ソフトバンクは同社を4.7兆円と評価し、ゴールドマン・サクッスは上場すれば最大9.6兆円になるとした。8月のIPO申請時点では評価額5兆円以上を期待していたはずだ。しかし投資家が集まらず評価額をどんどん切り下げ1.5兆円まで下げた9月にIPOを諦めた。直後に資金難が表面化しソフトバンクが救済した時の評価額は8000億円だが、客観的には3000億円(無価値とする人もいる)程度とされる。1月には100万円だった株価が6万円に暴落した事になる。
8月に公表された上場目論見書は非難の渦となった。ニューマンCEOの過度な節税、会社からの低利借り入れや個人保有のビル4本を会社に貸付けるといった利益相反、複数議決権制度により図られた保身、死後の後継者選びに夫人が必ず関与するといった私物化・・。
ニューマンCEOは実はWeWorkの上場には気乗り薄だったという説がある。たしかにあまりにも多くの問題を抱えたこの目論見書には、上場への執念のようなものはなかった。
上場申請撤回へのとどめはウォールストリート・ジャーナルの長文のルポだ。ニューマン氏がイスラエルに行った際に、借りたプライベートジェットの機内で麻薬パーティを開き、その連絡を受けたジェット機のオーナーが、ニューマン氏一行を置き去りにして機体を引き返させたという話の詳報だった。この記事でニューマン氏への信用は完全に無くなった。
驚いたことにIPOの不成立でWeWorkのキャッシュは11月に枯渇することが分かった。
この急場の救済策は2社から提案された。JPモルガンは破綻会社向けスキームと似た案を出し、ソフトバンクは1兆円を出すとした。後者が採用され、ソフトバンクのWeWork関連の出資額は累計2兆円弱(一部の重複を含む)にもおよぶことになった。
このスキームで最も問題視されたのは、ニューマン氏に総額1700億円の超巨額の退職金パッケージを与えたことだ。あまりにばかげた話で、この判断で孫氏の信用は一段と下落、彼が熱心に進めていた第二ビジョンファンドへの出資者はもう皆無となった。
孫CEOが唱えた「拡大・圧倒的シェアの獲得」という戦略が成功した事例は何社もある。アマゾンは上場時点ではまだ赤字だったが投資を続け、今はトップシェアだ。マイクロソフトもバグだらけのソフトを苦情をものともせず売り続け、トップシェアを取った。
しかしオフィス賃貸での「圧倒的シェア」というのは明らかに誇大妄想である。
似たような誇大妄想としては、ソフトバンクが出資した会社の中には話が拡大してピザで圧倒的なシェア取ることをめざすことになり、結局、頓挫した会社があった。
犬の飼い主とひまな人間をマッチングさせ、散歩の代行をするアプリでは、アメリカには飼い犬5000万匹がいてシェア1%をとれば50万匹というビジネス規模になるとされた。
WeWorkの経営には現在、孫氏の腹心があたっている。再建は不可能との見方が支配的で、楽観的観測を述べているのは孫氏とその周りのごく例外的な少数である。
すでに契約したオフィス床が大量にあり新規拠点は次々とオープンしているが、これらは立地的に悪い場所が多い。会員の新規獲得状況は悪化の一途である。さらにWeWorkの施設には人が集まるので新型肺炎問題でも大きく痛手をこうむりそうだ。過去に取得した会社を次々と赤字で売却しているのは、資金が相当タイトになっているからだろう。
このような中で、あえてWeWorkから学ぶべき点を指摘したい。
WeWorkは働き方を「ブランド化」した。会員たちはWeWorkの会員となることで「コミュニティ」に加わり、会員であることをブランドのように思っていた。これは「箱貸し」中心のオフィスビル賃貸会社にとって興味深い。
机やキャビネが備え付けられていてPCだけ持ち込めばその日から働くことができるというのも非常にうけが良い。スタートアップにとっても、あるいは大手企業にとってさえも新規のオフィス開設の手間ひまは惜しみたいのだ。
たぶんどこの国でも既存のビル会社はどこか「大家さん」なのだろう。WeWorkは「利用者目線」からスタート、それが同社がある程度まで受け入れられた理由なのかも知れない。
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