ライボーに代わるべき新指標金利SOFRへの移行が進んでいない?

 私が「金利」にさわった数少ない体験の一つが、勤務先の海外事業部にいた時だ。後年、思うにそれは「当社の海外事業部の(世間的な意味での)黄金期」だった。

 移動して間がなく、海外事業の事などまだろくに知らないのに、建設省の大学の先輩が(政策立案の為に)アメリカの空中権制度について大至急説明に来いという。常務から車を借りて霞が関に着くまでの間、黒い車の中でにわか勉強して説明に臨んだわけだ。

 あるディールを私が取り仕切るはめになった時は、某中堅生命保険会社の常務さんから私のなんと自宅に直接電話があって「よろしくお願いします」と頼まれ、すっかり恐縮してしまった。私がまだ30才前の時だ。

 

 当時、ロサンジェルスの現法は大型ビル投資+ハワイの大型ホテル建設ほかの資金の為に400億円か500億円くらいの借金をしていた。全額を邦銀10行くらいから三ヵ月物の短期で借り入れていて、そのレートが大問題であろうことは素人でも分かった。

 しかし課長の金利の交渉はえらくあっさりとしていて、指標金利の「ライボー」に上乗せ(銀行の取り分)する「スプレッド」だけを交渉していた。この「スプレッド」が銀行ごとに異なり、4分の1(+0.25%)か8分の1(+0.125%)が中心で、なかには16分の1(+0.0625%)という銀行もあった。

 後日、三井物産の友人にきくと、「なんだそれは、スプレッドは普通は2%くらいなもんだ」と言われた。当方は普通の10分の1から30分の1くらいで借りていたわけだ。

 

 一行だけあった「16分の1」という銀行はロサンジェルスから国際電話があり、本社から低すぎるととがめられてしまったのでなんとか「8分の1」に上げてほしいと課長に哀願している。課長はではあなたのところからは次回は借りないというと、それも困ると言う。「0.0625%と0.125%の違いより、この国際電話料金の方が大きい」とも課長は言った。

 ある銀行は当社への貸し出しに失敗すると担当者の責任問題になるという事情があった。課長はまず最初にその銀行に「ベストなレートを出してくれ。他が同じだったらあなたから借りる。他の方が安かったらそっちから借りる」と申し渡した。当然、ベストレートが出てくるわけで、他の銀行にもこのレートでお願いした。

 この時代、邦銀は横並びで海外進出を競っていたのだが、海外で安心な融資先なんてそんなに簡単に見つかるものではない。当社の現法は安心して融資実績の額を伸ばせる、数少ないダイアモンドだったわけだ。

 

 金利の交渉がこんなに簡単に済んだのも、「ライボー」のおかげだ。まだライボーの制度的な手当てができる前の時代で、各行が言う「当行のライボー」が異なることが時々あった。現地の新聞に「前日のライボー」が書かれていて、これをもってライボーとするとくぎをさした。ロンドンで下手な調達しかできなかった邦銀は、あのスプレッドでは赤字になっていたはずだ。

 

 そういう神様のような存在だった「ライボー」だが、いんちきをする奴が重なり、2021年で廃止になる。てっきりFedが集計する「SOFA」にスムーズに置き換えられるものだと思い込んでいたら、SOFRはまだあまり普及していない。まだみんな「ライボーがない世界」なんて想像できないのだ。

 「ライボー」というのは銀行に対するアンケート調査の一種で、そんなに厳密な手続きではない。今みたいにとんでもない額の金融取引がこれに結び付くなんて考えていなかったんだと思う。

一方、「SOFR」は実際の取引レートなので、ライボーのようなインチキはできない。

 しかしこのままライボーが予定通り、廃止になってしまったらどうするんだろう。例えば「*年物貸し出し・三か月ごとにライボー連動で金利見直し」なんて取引はたくさん残っているのだ。

 

(2021.6.26追記:ライボーから移行すべきドルの指標金利は混迷状態だ。依然として最有力はSOFRだが、BB指数、Ameriboも有力視され、他にも幾つか候補がある。どうするんだ?)

 

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