マンハッタンのダウンタウンでひときわ目立つ高さのビル、ワン・ワールド・トレードセンターでメディア大手のMDCパートナーズが6フロア分を契約、このビルの稼働率は93%になった。家賃はかなり値切られたようだ。
稼働率93%というのはアメリカでは合格点だ。オープンを一応2014年11月とすると、5年半で合格点になったわけだが、想像以上に厳しい道のりだった。
元々は2本の超高層ツインタワーがあったが、2001.9.11のアルカイダのテロで倒壊した。
ニューヨークのデベ大手のシルバースタインが一帯の開発を主導、大議論が起きた。10本くらいのビルのうちシルバースタインは3棟を開発、その中の目玉が今回のビルだ。
アメリカでは「テナントを確保していないのに着工する」のを「スペキュラティブ・インベストメント(ばくち的な投資)」といって通常は異端視される。このような建て方が見られるのはアメリカではニューヨークとサンフランシスコとボストンしかない。日本(東京)とは大違いだ。
ワン・ワールド・トレードセンターはこのスペキュラティブな建て方が裏目に出た。このビル周辺には以前は金融会社が多数あり、同時テロで移転した会社が戻ってくると考えていたのに、戻ってこなかった。
リーマンショック(2008)の反省から「ドッド=フランク法」という法律ができ、金融業がとれるリスクが大幅に制限された。リスクが取れないのでは金融業は儲からず、高い家賃は払えない。一時避難のつもりだった移転先の低家賃から抜け出せなくなっていた。
このビルは「デベはシルバースタイン」だが「大家さんは港湾局とダースト・オーガニゼーション」だ。この辺の区別も日本とまだかなり感覚が違う。
ちなみに「港湾局」はマンハッタンの地主大手だ。ほかの大地主としては「トリニティ教会」がある。この教会は入植の初期に大面積を所有、今も地主として君臨している。
ついでにこのビルのオープン、上記では「2014年11月」としたが、これも結構難しい。アメリカでは全体竣工の前に部分的な使用許可が出る。このビルでも一部フロアでは先行的に入居が始まった。さらにこのビルの最上階3層は展望デッキなのだが、これを一般公開した日をオープンとすることもある。「竣工記念式典の日」をオープンの日とする場合もある(このビルはこのようなセレモニーはしていないはずだ)。役所手続き的には消防の許可とか建築局からの使用許可のような日付もありそうなものだが、これらは話題にならない。
ちなみに三井不動産が約5000億円の大口投資してほぼ大成功確実になっているハドソンヤードのオープニング式典は変な日だった。早めに竣工していたビルはとっくに使われていた。
ということで、「竣工から*年で稼働率が*%になった」というような話では、誤差数か月は覚悟して聞かなくてはいけない。
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