ソフトバンクの孫CEOは何回も「ソフトバンクGの売上げや利益に意味はない、資産から負債を引いた額こそが重要だ」と言っているようだ。
これはCEOが自分の会社の損益計算書は適切に同社の損益状況を表していないと公言しているわけで、恐るべき話だ。
日本の税務申告制度では企業が作成する損益計算書に「損益調整」を施して「課税所得」を計算する。「適切に損益状況を表していない損益計算書」を基にして計算した「課税所得」の計算には意味がない。従って、こんな申告書には「青色申告」を認めるべきではない。
ちなみにアメリカでは「企業会計」とは別建てとして「税務申告書」を作成する。かなりの部分で勘定は共通なのだが、「企業会計」と「税務申告書」は「損益調整」を通じて結びついてはいない。従ってアメリカでなら上記の「青色申告」に相当する問題は起きない。
だいたい、簿記の基本に従えば、残高試算表を二分割したのが「損益計算書」と「貸借対照表」だ。「損益計算書の損益」と自己資本の中の「利益剰余金の増減」は必ず一致する。
孫CEOの表現では、同社は複式簿記を採用していない事になる。
私は歴史は聞きかじりなのだが、孫CEOが言いたがっている「損益計算書は適切に同社の損益状況を表していない」とするとその原因は次のような話だ。
歴史上、「損益計算書」が誕生したのは東インド貿易の時だ。
東インド貿易では広く出資を集めて船を仕立て、インドで得た胡椒を持ち帰って売りさばき、利益を出資者に配当する。つまり「損益計算書」は配当額を計算するため、その計算の適正さを示すためのものとして生まれた。
ここにこそソフトバンクの損益計算書の矛盾がある。同社が「利益」と称している物の大半は「評価益」であり、評価益のままでは現金を配当できない。借り入れを起こして配当するというようないびつなやり方しかない。同社は配当もできないくせに「損益計算書」と称するものを作っている(作らざるを得ない)わけだ。
エリオットの株付けにしても、オヨがあちこちで叩かれて後退している話にしても、南米で料理宅配会社3社がいずれもソフトバンクからの出資を原資として消耗戦になっているというバカな話にしても、次から次にどろ船から逃げ出すように上級幹部が退職し始めているとしても、経営に「黄色信号」が点滅している。
そこに加えてソフトバンクの経理部は税の抜け道探しには異常に長けているが、その他の面で同社のウルトラスケールな企業規模に追いつかない浅知恵しか持たないように見え、これでは同社は今後は大変だ。アリババ株だけで大丈夫だろうか。
ビジョンファンドでの取引を超複雑なものにしている責任者はドイツ銀行出身者だそうだが、そのドイツ銀行は今、経営不振だ。原因の一つがサブプライム・ローン関係の取引が複雑過ぎてほどけないまま(損失処理できないまま)ずるずるとひきずり、とうとう本体がおかしくなってしまったという話が聞こえてくる。
不動産開発でも取引を超複雑にして自分にしか分からないようにして、自分の立場なり雇用の安全をはかるというタイプの人間が日本にもアメリカにもいるが、同じことがビジョンファンドのドイツ銀行出身者でも起きているのではないか?
世界中の投資家から「ソフトバンクとビジョンファンドの取引は不透明だ」と非難の大合唱なのに同社はこれに答えようとしていない。そもそもソフトバンクの経理部がビジョンファンドの取引が複雑すぎて理解できていないのではないかと疑われる。
そして経理部が苦しまぎれに孫CEOに吹き込んでいるのが、「ソフトバンクGの売上げや利益に意味はない、資産から負債を引いた額が重要」という、無理な話なのだと思う。
だいぶ前にも書いたが、孫CEOはアメリカでだけではなく、ソフトバンクGの内部でも「ピエロ」になっているようだ。
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