アメリカで最も不動産の所有高が多い会社はブラックストーンとブルックフィールド(法的にはカナダの会社)だが、これらは金融投資会社であり不動産会社ではない。
普通は最大の不動産会社というと「サイモン・プロパティ(モールリート)」か「プロロジス(物流倉庫リート)」であり、時価総額は前者が大体500億$(5.5兆円)が後者は大体551億$(6.1兆円)だ。
株価動向やM&A、資産買収等でも変動するが、両社が今の所、不動産会社の並び大名だと思っていた。
ところが「アメリカ最大の不動産会社 real estate company」として検索すると意外な会社が出てきてしまう。「アメリカン・タワー」という所謂「アンテナ・リート」で、時価総額は911億$(10.0兆円)もある。
何をやっている会社かというと、携帯電話ビジネスのためには膨大な数のアンテナの基地局が必要なわけなのだが、同社は世界17ヵ国で17.1万ヶ所の、アメリカ国内だけで4万ヶ所の基地局を持ち、これを携帯電話会社に貸して賃料を取り、自らはリート(不動産投資信託化)として上場している。
従って持っている物はアンテナを付けるための垂直に立つ棒と、それを支える支柱と土台(基礎)+土地・借地となるのだろう。ビルやマンションに取り付けて立てることも多い。アンテナは基本的には携帯電話会社側が取り付け同社の所有ではないようで、「アンテナ・リート」というより「アンテナ取り付け用施設リート」だ。
日本法ではこのような施設はたぶん不動産ではない。少なくとも不動産登記の対象にならない。構築物なり設備だろう。
アメリカの辞書を見たのだが「real estate」の中にアンテナ塔を含めて列挙しているものは見当たらなかった。しかし同社はリート(real estate investment trust)適格と認定されているので、「不動産を所有していない不動産会社」ということになる。
ただ面倒くさい話だが日本語の「不動産」と英語の「real estate」は一対一対応していない。「不動産」というのはたぶん大陸法由来の考え方で、英米法では「不動産」という考え方が直接的には存在しない。英語にも「immovable assets」という言葉はある事はあるのだが、私がこの単語をメディアの記事の中で見た回数は過去に一回か、二回だ。
「アンテナ・リート」というビジネスモデルが優れているのは、一つの基地局を複数の携帯電話会社に賃貸できることだ。電波の干渉がどうなっているのか知らないが、実際、貸している。
これにより携帯電話会社は基地局設置のための投資額を大幅に削減でき、また携帯電話会社間で重複しかねない投資を一つの基地局にまとめて節約する事ができる。
こういう話を聞くと、日本の携帯電話会社各社は基地局設置費用をどう負担しているのか、知りたくなるところだ。
我々の携帯電話料金にもろに響いてくる話だからだ。
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