いきさつははぶくが、三井不動産には昔、飲食業子会社があった。
不動産会社がレストランを経営したってもうかるわけがないのだが、その一方で親会社としては歯がゆく、ある時、出向者を出して同社をテコ入れすることになった。
いろいろ議論をしているうちに、「レトルトカレーを作ろう」ということなった。なんでそういうことになったのかという議論の過程もはぶく。そういう結論になったのだ。
「おいしいものでないとだめだ」との方針を決め、おいしくなるレシピを研究、適正利益を乗せると「定価は500円」ということになった。ちなみに当時のレトルトカレーの相場はどのブランドでも大体「100円」程度だった。「500円」というのは食品業界の常識からでは考え付きようもない、革新的に高い値段だったのだ。
その代わり、うまかった。私はこの「500円」のレトルトカレーを社内で最も食べた一人だ。子会社、関連会社からの中元・歳暮が5-6年の間、ほぼすべてこれの6個入り詰め合わせだったからである。カミさんと娘たちは早々に食べ飽き、半年ごとに大量に届くこれらを私一人で消化していたのだが、食べ飽きることがなかった。担当を外れてからも、個人的に買っていたくらいである。
会社に出入りしている三越さんの外商さんに頼んだら、裏から手をまわして本店地下の食品売り場に並べてくれた。さすがは三越さんで、レトルトカレーに「500円」とつけるとそれ相応の超高級品に見えた。会社が近かったので、担当は台車にレトルトカレーを乗っけて運び、納品していた。
二年くらいした時、ある大手食品会社がこのカレーについて、ヒアリングしたいという。年間の販売個数実績等を説明すると「500円のレトルトカレーがそんなに売れるものなのですか」と心底驚いていた様子だった。
しばらくするとその会社を含めた大手食品会社群が、いっせいに高級レトルトカレーを売り出すようになった。
そして今、みなさんがちょっとぜいたくをして数百円を奮発すれば、すごくおいしいレトルトカレーが食べれる世の中になっているわけである。