世界の住宅市場について興味深い記事が3本出た。1本目はFT(フィナンシャル・タイムズ)の記事だ。ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、シドニー、東京といった世界の国際的大都市で、2008年の金融危機以降、住宅価格の動きがシンクロしている。これらの都市では「利下げ」→「外人買いが歓迎される」→「住宅価格が上昇」→「高額価格帯で供給が増える」→「価格が下落する」という動きで共通している。このようなシンクロ現象を起こした最大の要因は、各国中央銀行が同時に行った大規模で長期にわたる「金融緩和」と見られる。なおこれらの現象が見られる都市の中で、東京は最も価格の振れ幅が小さい。
2本目はBB(ブルームバーグ)の記事で、世界の大都市は住宅価格が明らかに高くなりすぎているのだが、「価格の上昇を抑えるには(注:日本を見習って)もっと住宅を建てろ」という内容である。日本で住宅がどんどん供給される理由として次の事項が挙げられている。
容積が緩和され、用途制限も緩やか(例:工業用途の地域でマンション等の供給が可能)。法令に適合していれば建ってしまう(例:「ピンク色の外壁のゴシック風建物」でも建つ)。耐震基準の改定もあって家は20-30年で建て替えられ、建物の経済的な価値が低い。従って持ち家の資産価値を下落させかねない新築住宅の供給を嫌うという傾向がない。
3本目はWSJ(ウォールストリート・ジャーナル)の記事だ。住宅市場の好調さにも拘らず、アメリカで新築住宅が今一つ伸びない理由として、次の事項があげられている。
現行の規制は新規供給の抑制を図った時期に制定され、手早く開発するには厳しすぎる。大学進学率が上がり建築作業員の数が減り、移民規制も相まって人手不足となった。郊外での一次取得者向け住宅が遠隔地化し、供給物件が消費者の好みに合わなくなった。
ニューヨークでの史上最高額のマンション売買は、マンハッタンの「ワン57」のデュープレクスの住戸、「1億47万$(106億円)」だが、買主がデルの創業者である事が5年も経ってやっと判明した。ニューヨークの不動産業界の口の堅さも大したものだとされている。
買主の正体が分からなかったのはペーパーカンパニーを用いていたためだ。ニューヨークの超高額物件ではペーパーカンパニーを幾重にも重ねて真の購入者を隠す事が通例だ。
デベのリレイティッドは55ハドソンヤード内に会員制のクリニックを設置する。アメリカでは大型ビルでもビル内にクリニックがあるのは珍しいようだ。
シンガポールの住宅市場は順調に回復軌道に乗っている。築年の古いマンション(共同住宅)を住民・所有者がデベに対して一斉にまとまって売る「エン・ブロック売り(集合的売却)」が、市場をますます活気づけている。昨年は3000戸がエン・ブロック売りで売られた。
ロンドンの住宅市場の下落に加速がついている。データ会社のアカデータによれば1月の住宅平均価格は593,396£(8840万円)で、前年比2.6%の下落となった。この下落幅は2009年8月以来で最大の大きさだ。ブレグジット国民投票以降の成長率鈍化、インフレの進行、英中銀による今後も利上げを続けるというシグナルが住宅価格下落の原因か。
「学生寮投資」が世界で盛んになっている。エマージング諸国が豊かになり、中流層が子弟を海外留学させる際の受け皿として需要が高まると見られているからだ。
「学生寮」は投資区分としては「オルタナティブ不動産」になる。他の「オルタナティブ不動産」には、データセンター、メディカルビル、介護住宅(老人ホーム)等がある。流動性は低いが、比較的高い利回りが得られることから一部の投資家が好んでいる。
グローバル不動産経済研究会:レジメ(2018.3.23)
(ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清 f-ree@88.netyou.jp)