アメリカのマンションなどで起きている「アメニティ・バブル」

 「アメニティ」というと、まず思い浮かぶのはホテルの洗面室に置かれたシャンプーや香水、歯磨き等の類だが本来の意味はもっと広く、「快適な状態をもたらす環境」というニュアンスだ。従って「快適な環境を醸し出すための『モノ』」もアメニティと呼ばれている。

 最近、アメリカの不動産関連ビジネスでは「アメニティ」の充実が著しい。ここでは具体的にどのようなものが最新のアメニティとして提供されているかを順に見てみよう。

 分譲、賃貸を問わず、マンションでさかんに設置されるようになったのが「プール」だ。通常は地下に設置されるが、あるプールは空中に設置されて注目された。40階建てと49階建ての賃貸マンション2棟の27階付近を3層構造(三階建て)の空中廊下で連結、このうちの1フロアを取り込んでプールが設置されている。全長300フィート(91m)もある。

 アメリカ人はプールへの思い入れが非常に強く一戸建てはプール付きだと評価が高くなるのだが、マンションの共用施設としてプールが増えたのもこのメンタリティの影響ではないかと思われる。

 ほかにマンションでどのような「アメニティ」があるかを列挙してみよう。

 「ジム」「ヨガ室」「バスケットコート」「ダンススタジオ」「ボルダリング用の壁」「ボッチャのコート」「大人用ツリーハウス」「自転車用の部屋」「映画室」「図書室」「娯楽室」「ラウンジ」「共同キッチン」「屋上テラス・展望台」「屋外のティーハウス」「焚き火台」「共同菜園」「温水バス」「トルコ風の風呂」「カフェ(毎日朝食が無料で食べられる)」「犬を洗う部屋」「ドッグラン」・・・

 注目すべきことはこれらのうちのいくつかは「エクスペリエンス(体験)」と関連付けられている事だ。「エクスペリエンス」という言葉はアメリカでの流行り言葉であり、日本でいう「コト消費」と通ずるところがある。例えば「自転車用の部屋」では専門家を呼んで自転車関連のワークショップが開かれる。「共同キッチン」では料理教室が開催される。あるいは本職のバーテンダーを呼んでウィスキー、ワイン、カクテルなどのテイスティングの会を催すマンションもある。これらも「エクスペリエンス」とされる。

 

 オフィスビルでもアメニティの充実が図られている。これも列挙してみよう。

 「屋上庭園」「屋上のカクテルラウンジ・レストラン」「テラス」「ジム」「ラウンジ」「ヨガ教室」「マニュキア店」「ヘアスタイリスト店」「マッサージ」「アートイベント」「15分以内の弁当配達」「共用部の香水」・・・

 これらはテナント従業員へのサービス改善を狙ったものが中心だ。「屋上」についてのみコメントしておこう。従来はビルの屋上で大きなスペースを占めていた設備、塔屋の類が技術進歩とITの活用で、小さくて済むようになった。このため「屋上」に比較的広い空きスペースができ、この有効活用がいま、ビルオーナーの間で流行っている。これには「テナントサービス」という面と「新たな収益源」という面がある。

 ホテルではさらにバラエティが広がる。

 ラグジュアリーなホテルで話題になったアメニティとしては、「部屋のタンスにビンテージ物の衣服やジュエリー、ハンドバッグ等を入れ、滞在中は使い放題とする(買取も可)」「枕の中身のブレンドを予約時に指定、イニシャル入りの物が用意される(持ち帰り可)」「ジグゾーパズルをスタッフが手伝ってくれる」「ビーチにいる時にパパラッチが近づかないように見張ってくれる」「花火のプログラミングを部屋からiPadにより設定できる」等がある。いずれも我々が持つ「ホテルのアメニティ」のイメージをかなり逸脱している。

 宿泊者に「バッテリー」「延長コード」「ヘアドライヤー」「ヘアアイロン」といった備品を貸し出すホテルもある。これらは旅行の荷物に加えると重くてかさばるからだ。「自転車」「自動車」「ランニング用備品」の貸出をするホテルもある。

 「エクスペリエンス」の関連でいえば、「トレーナー付きの筋力増強のための電気刺激プログラム」を売り物にしているホテルがある。他にも「うんてい等を含めたの各種の運動器具の充実」「シャーマンとの交流できるようになるトレーニングを体験」「草原や樹木の間、2マイル(3.2km)を走るランニングコース」などがある。もっともこれらは「アメニティ」というよりは「アクティビティ」と言うべきかもしれない。

 

三井不動産リアルティ㈱発行 

 

REALTY PRESS Vol.42 20182