アメリカには代表的な「住宅価格指数」が2つあるが、両方とも日本人にとっては信じられない話が指数の前提になっている。
「住宅は建物が古くなっても安くならない(築年減価がない)」という話だ。実際、アメリカのマーケットはそうなっている。
この結果、「住宅価格指数」を作る事は原理的にはとても簡単だ。
ある中古住宅が取引された時にその住宅の「過去の契約時点と売買価格」が分かりさえすれば、その間の住宅価格の「変化率」が分かる。サンプルを増やせば「指数化」出来る。えらく単純な話なのだ。
手間がかかるのは、当該物件の「過去の契約時点と売買価格を調べる」事だ。
「S&P/ケース・シラー住宅価格指数(通称:ケース・シラー指数)」では、各登記所においてファイルされた売買契約書から住所、契約日、売買金額等のデータを集めてデータベース化し、新規の取引があった時に住所をてがかりにこのデータベースと照合している。
「FHFA(連邦住宅金融庁)住宅価格指数」では、公的金融機関であるファニーメイとフレディマックに持ち込まれた住宅ローンに添付されたデータがデータベース化されていて、新しく持ち込まれた住宅ローンの担保物件について、住所をてがかりに照合している。
2つの指数には一長一短があるが、2000年代中盤の住宅ブーム時の価格上昇の激しさをより正確に反映した「ケース・シラー指数」で議論される事の方が多い。
この指数は「10都市分」と「20都市分」が発表されている。最近の議論では主に「20都市分」が使われているので、こちらでこの15年間の住宅価格の推移を見ると次の様になる。
アメリカの住宅価格は2006年4月に高値のピークを打った。これは中古住宅売買件数(既存住宅販売)がピークを打った2005年9月の7か月後だ。
しばらくごくなだらかに下落した後、2007年後半から急落を始め、リーマンショック後の2009年5月に一番底、その後2012年2月に二番底を付けた(この時がボトムで、ピーク比66%だった)。
ここからほぼ持続的な上昇に転じ、昨年12月発表の「10月分」ではピーク比88%まで回復した。
これらは「2000年1月=100」として指数化されている。このような住宅価格指数が2、3か月遅れと、リアルタイムにかなり近い形で得られる事は驚異的だ。イギリス他多くの国でも住宅価格の変動はモニターされているが、ここまで高い精度ではない。
技術的な難しさはあるが、ぜひ日本でも説得力のある価格指数が欲しいものだ。
ジャパン・トランスナショナル 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY PRESS Vol.35 2016年3月