ヨーロッパの不動産市場の中ではロンドンの国際性が飛び抜けて高く、世界中から投資資金を引きつけている。パリ、ベルリン、フランクフルトといった他の大都市とは比較にならない量だ。ロンドンがこのように国際的不動産投資資金を集めるようになった背景は次の様に整理できるだろう。
第一に「英語と英米法」の国である事の有利性だ。ロンドンには元々金融取引の中心地としてのインフラがあった訳だが、これに法律行為のかたまりでもある不動産取引が乗っかった訳だ。法体系が世界で突出した大国・アメリカとよく似た「英米法」であり、かつ英語で処理されている事は海外の投資家にとって大変ありがたい事だ。海外投資家が日本で不動産の現物に投資をしようと思った場合の先方の苦労を想像すればよいし、みなさまの中にも日本側の窓口として苦労された方がいらっしゃるかもしれない。
第二に、これは今となっては結果的にラッキーな選択になった訳だが、「ユーロ」に参加しなかった事である。ギリシャ危機が始まってから約6年が経ち、「ユーロ危機」という言い方がすっかり定着した。危険を感じた資金はユーロ圏内ではドイツに逃げ、ユーロそのものを忌避した資金はイギリスとスイスに逃げた。しかしスイスは不動産市場のサイズが小さく、結果、ヨーロッパの不動産向け投資資金はロンドンに集まることになった。
第三に、一時期までの資源ブームがある。今でこそ原油ほかの資源価格は低迷しているが、しばらく前まで資源国は大変、金満だった。国で言うと中東湾岸諸国、即ちドバイ、アブダビ、カタール、クエート他、これに南アフリカ、ロシア、ブラジル、インドネシア、マレーシア等が加わる。中国は資源国ではないが巨額の貿易黒字を背景に世界中で投資、その一環としてロンドンでも投資をした。シンガポールも類似している。ロンドンへは日本勢も大型投資をしている。
これら投資元の国のほとんどはアメリカへの不動産投資国と重なるのだが、「カタール」と「ロシア」は顕著な例外だ。「カタール」はもっぱらヨーロッパ、特にイギリスへの投資に偏重、それを反省してアジアにも重点投資しようとした矢先に原油安となり、今は一時の勢いが衰えた。「ロシア」のアメリカへの不動産投資が少なさは、冷戦の名残なのか、単に地理的に遠いためか、あるいはアメリカは何かとうるさいからだろうか。
(ジャパン・トランスナショナル 坪田 清)
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY PRESS 2015年12月 掲載